なぜ、人は不安やストレスを感じるのか。認知心理学者で神経科学者でもあるエレーヌ・フォックス氏が、最新科学でその正体を突き止めた。成功し、幸福になる確率を劇的に上げる方法と簡単トレーニング法を伝授する。(認知心理学者・神経科学者 エレーヌ・フォックス 取材・構成/国際ジャーナリスト 大野和基)
最新科学で判明
「不安」の正体
私は心理学と神経科学を数十年にわたって研究しています。神経科学者として長く脳の研究もしてきましたが、最近わかったことは、脳は予測マシンとして機能しているということです。
以前は、何かが起きたときに脳がそれに反応すると考えられていました。しかし、実際はそうではありませんでした。脳は次に何が起こりそうかを予測します。そして実際に脳の予測通りに事が起きたときは、問題は起きません。しかし、脳の予測に反したことが起きると、不安になります。
だから我々は不確実性に対して非常に敏感になるのです。状況が不確実になればなるほど、ストレスがたまり不安になります。
幸福になる秘訣は
柔軟な考え方を持つこと
私は最近、ビジネスパーソンやスポーツ選手に向けてライフ・コーチングも行っていますが、不確実性の高い現代において、成功し、幸福になる確率を劇的に上げるには、柔軟な考え方を持つことこそが大切だと痛感しています。
ちまたでは、自己啓発本がたくさん出ています。例えば、「成長マインドセット」という有名な概念がありますが、これは「硬直マインドセット」に対極する概念で、何事にも失敗を恐れず挑戦し、努力すれば成長できるという考え方です。また「いま、ここ」に意識を集中させる「マインドフルネス」や「グリット」(最後までやり抜く力)も注目されています。しかし、これらは特定の状況では非常に有効ですが、すべての状況で有効ではないばかりか、逆効果になることさえあります。
私がよくたとえで使うゴルフの例で説明しましょう。ゴルフをするとき、さまざまなクラブが必要ですね。ふさわしいタイミングでふさわしいクラブと戦略を選ぶ必要があります。まさに人生でも同じように、やり抜く力が必要とされている局面なのか、変化を起こすべき局面なのか、状況に応じてふさわしい手法を選ぶ必要があります。
つまり、充実した人生を送るためにもっとも重要なことは、その状況にふさわしい対処法に柔軟に「切り替える力」なのです。