新造コストの上昇などで
補助金の範囲で購入できず
ただ上毛電鉄は当初、2018~2022年度の支援計画で新造車両を導入する予定だった。なぜ方針転換したのか同社に聞くと、近年、車両の新造コストが上がっているうえ、小ロットの発注となるため設計費用がペイできず、補助金の範囲で購入できないことが判明したからだという。経営体力のない中小私鉄では新造車両は難しいと苦しい状況を明かしてくれた。
しかし03系が引退したのは3年前。前述の地方私鉄は03系全編成が引退した2020年内に運用が始まっており、譲渡車両以外の編成は多くが解体済みだ。なぜ、譲渡用の03系が残っていたのか。東京メトロに聞くと廃車後、千住の車両基地に留置していた車両とのことだが、いつから話があったのかなど譲渡の経緯は差し控えたいとのことだった。
ところが上毛電鉄に聞くと、実は東京メトロの子会社であるメトロ車両から売り込みがあったのだという。鉄道の中古車両は数が限られるうえ、線路や車両の規格から導入先も絞り込める。また事業者同士で情報共有をしているため、新型車両の導入断念を聞いてビジネスチャンスと思ったのだろう。
長期間使用した車両は、海外への譲渡も多く行われているように、本体価格はそこまで高いものではないし、中小私鉄に高く売りつけて利益を得るわけにもいかない。
だが首都圏向けの8両編成をそのまま地方で使えないので、編成の短縮や信号保安装置の変更など改造が必要になる。この工事をグループ会社が受注することで利益を得るというわけだ。実際、上毛電鉄以外の譲渡車両のほとんどがメトロ車両による改造だ。
今回の上毛電鉄「800形」は1編成3億円、1両当たり1.5億円だ。ひと昔前まで新造車両は1.5億~2億円が相場だったので、同社としても新造できると考えていたのだろうが、条件が折り合わなかったようだ。結局、中古にしてはやや高いと感じるものの、予算に収めるにはこれしかなかったのだろう。
言うまでもなくメトロ車両はぼったくりではない。ローカル化には8両編成を両先頭車のみ残して2両編成に短縮する必要があるが、先頭車にはモーターやパンタグラフ、その他の運転に必要な一部の機器がついていない。場合によっては一部の装置を新造する必要があり、コスト増の影響は中古車両の改造にも及んでいる。