群馬県の前橋市と桐生市を結ぶ上毛電気鉄道は11月24日、約23年ぶりの車両更新を2024年から3年程度かけて行うと発表した。当初は新造車両を導入予定だったが、東京メトロ日比谷線で2020年まで使われていた「03系」車両を譲り受け、2024年2月から「800形」として運行することになった。計画が変更された理由とは。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
老朽化が隠せなくなった
1960年代製造の「700形」
上毛電気鉄道の年間輸送人員は1965年の958万人からコロナ前で150万人、現在は130万人程度まで減少しており、1970年代半ばから経営難に陥っていた。国と県が補助金を交付し経営を維持してきたが、1997年に国の補助が廃止され、上毛電鉄は存続の危機を迎えた。
議論の結果、ピーク時の輸送人員をバスで置き換えることは困難であるとして、前橋市、桐生市など沿線自治体が組織する「上毛線再生協議会」が設立された。施設整備と維持に要する経費を公費で負担する「群馬型上下分離方式」の導入が決まり、1998年度以降の25年間で計80億円以上の支援を続けてきた。
今年3月に策定された2023~2027年度再生基本方針は、国が約4億円、群馬県が約9.5億円、沿線3市が残り9億円(計約22.5億円)を支援し、車両、信号保安装置、レール、電化柱の更新を進めるとした。今回の車両更新はこの支援に基づくものだ。
上毛電鉄が現在、運行するのは1960年代に製造された「700形」車両(元京王電鉄3000系)だ。1998年から2000年にかけて導入したもので、同社初の冷房車両としてサービス向上に貢献したが、さすがに老朽化が隠せなくなっていた。
そこで東京メトロ日比谷線で2020年まで使われていた「03系」車両3編成6両を譲り受け、2024年2月から「800形」として運行することになった。更新費用は1編成あたり3億円、総額9億円だ。
03系は1988年から1994年にかけて42編成が製造された。大手私鉄の通勤車両は40年程度運用されることが多いが、03系は耐久性の高いアルミ車体の上、車歴30年程度で引退したため程度が良い。そしてもう一つの特徴が、他社線と直通運転する東京メトロ7路線のうち唯一の18メートル車両だったことだ(2020年導入の後継車両13000系は20メートル車になった)。
線路の規格が小さい地方私鉄にフィットする「いい出物」だったことから注目を集め、2020年以降、熊本電気鉄道に「03形」車両として3編成、長野電鉄に「3000系」車両として5編成が譲渡された。北陸鉄道浅野川線でも2020年12月から運行が始まっており、2024年度までに計5編成が譲渡される予定だ。ちなみに東武鉄道の日比谷線直通専用車両20000系も長野県松本市のアルピコ交通に譲渡されている。