NTT帝国の奇襲#7Photo by Masato Kato

自民党が2023年12月にまとめた提言が通信業界に波紋を広げている。25年の通常国会をめどにNTT法を廃止するという内容に、競合他社は大反発している。特集『NTT帝国の奇襲』の#7では、ソフトバンクの宮川潤一社長に懸念などを聞いた。(ダイヤモンド編集部 聞き手/村井令二、編集/千本木啓文)

自民党提言に欠けているものは
NTTは「特別な会社」であるという目線

――自民党のNTT法の在り方に関するプロジェクトチーム(PT。座長=甘利明・前自民党幹事長)が「NTT法は2025年をめどに必要な措置を講じ次第、廃止する」提言をまとめました。自民党が正式に提言として発表しています。

 提言の内容には全く同意できません。NTTがどんな会社であるべきなのかという目線が完全にずれてしまっていると思います。

 僕の目線では、NTTは「絶対になくしてはいけない電柱、局舎、とう道(NTT東日本やNTT西日本が管理する地下トンネルで、電話やインターネットのケーブルが通っている)といった特別なアセットを預かっている会社」です。旧国営会社から巨大な資産を継承したということで普通の会社とは絶対に違うのです。

 この点について(NTT法廃止に慎重な姿勢を取っている)総務省はよく分かっていると思います。一方で、自民党の議員たちはNTT法を廃止しようとしていますが、こうした両者の違いの根本には、NTTのアセットに対する考え方があると思います。

――自民党の提言の問題はどこにあるとお考えでしょうか。

 まず、NTT法を廃止したい人たちが狙っていることは一体何なのかを考えてみたいと思います。通信インフラというNTTのアセットを使って、通信とは別の事業をやろうとしている人がいたらどうなるでしょうか。

 つまりNTTの通信インフラを売却したり、それを担保に資金調達したりすることがあるかもしれないと想定するべきなのです。

 NTT法では、取締役の選任や解任には総務大臣の認可が必要になっていて、取締役会に外国人を入れてはいけないという条文もありますよね。どうして、このような条文が入っているかといえば、通信を守る精神を持った人にNTTを運営してもらうための措置です。

 今はNTT法の条文で、NTTのアセットを担保に入れるときには総務大臣の認可が必要だということが書いてあるわけです。これは、特別なアセットを誰かに渡すわけにはいかないから、別の事業をやるための担保にすることを制限しているのです。つまり裏を返せば、NTT法がなくなれば、アセットに担保力が発生するということになってしまう。これは極めて危険なことなのです。

NTTは「特別な資産」を保有する会社であることを強調したソフトバンクの宮川潤一社長。次ページでは、NTTが次世代通信基盤技術「IOWN(アイオン)」を推し進めることで起こり得る潜在的なリスクを大胆に指摘してみせた。仮にNTT法を廃止するなら、何が絶対条件になるのか、従来の主張を超えて踏み込んで語ってもらった。