NTT帝国の奇襲#4Photo by Reiji Murai

政府に3分の1以上の株式保有を義務付けているNTT法を巡り、通信業界は真っ二つに割れている。突如として、自民党がNTT法の「廃止」を打ち出したことで業界は混乱。それを支持するNTTは、KDDI、ソフトバンク、楽天グループの競合3社だけではなく、所管官庁である総務省の大反発を招き、完全に孤立している。特集『NTT帝国の奇襲』の#4では、第2ラウンドの攻防に入った「NTT法廃止」を巡る全内幕に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

NTT研究所を訪れた甘利氏
光電融合の新技術に“感嘆”

「日本が再び世界市場を席巻するチャンスかもしれない」――。

 2019年、神奈川県厚木市のNTT物性科学基礎研究所。自民党の有力議員である甘利明氏は、NTTが研究する世界初のチップに目を見張らせた。チップ内を電子ではなく光子がデータ伝送する“光電融合技術”を駆使すれば、従来のチップに比べて消費電力は100分の1、伝送容量は125倍となる。

「あらゆるネットワーク機器が電子から光に変わればゲームチェンジが起こせます」

 当時社長だった澤田純氏(現会長)は、研究所にやって来た甘利氏に、光電融合技術で通信やデバイスの産業構造を変えるという「IOWN(アイオン)」構想について熱弁した。澤田氏は、NTTがIOWN構想を世に発表する前後のタイミングで、甘利氏を研究所の視察に誘ったのだった。

 この交遊から4年。政府に3分の1の株式保有を義務付けているNTT法の廃止議論が、突如として自民党内から噴き出した。議論を主導したのは甘利氏だ。

 岸田政権では「経済安全保障」の議論を主導する自民党の重鎮であり、経済産業省の半導体政策においても絶対的な影響力を持つ存在だ。

 その甘利氏が座長を務めた自民党の「NTT法の在り方に関するプロジェクトチーム(PT)」は、12月に「NTT法は必要な措置を講じて25年の通常国会をめどに廃止」することを求める提言書をまとめた。

 にわかに持ち上がったNTT法廃止議論。この自民党の奇襲が通信業界を大混乱に陥れている。自民党の提言に対して、NTTと競合するKDDI、ソフトバンク、楽天グループが猛反発しているだけでなく、総務省もNTTに厳しい視線を向けている。今後は、総務省を舞台に、NTT法廃止を巡って激しい駆け引きが続く。

 次ページでは、通信業界の序列を激変させる「第2ラウンドの攻防」の舞台裏に迫った。