米国の当局者らはこれまで、人質となった自国民の解放に向けて取引も辞さないと公言することは控えてきた。そうした取引が新たな人質事件を誘発すると考えていたからだった。だが、敵対する外国政府に自国民が捕らえられるケースがかつてないほど増えたたため、米政府はこの方針を撤回した。米人質問題担当大統領特使を務めるロジャー・カーステンス氏は、米国が自国民を解放するために独裁者と取引することや、そうした取引を奨励することに良心の呵責(かしゃく)を覚えることはほぼない。「私の事務所には『米国はテロリストとは交渉しない』という標語が掲げられているが、われわれは交渉する」と同氏は語る。人質外交の中心的なジレンマは、差し迫った危機にひんしている人々のニーズと、将来的により多くの人々に危害が及ぶのではないかという懸念が対立することだ。カーステンス氏にとって人質外交における成功とは、3年間で30人余りの米国人を解放した取引を意味し、さらに将来の人質誘拐を阻止する方法を見いだすことを意味する。一方で、あからさまな取引主義的アプローチは、さらに多くの人質がとられるのを未然に防ぐ努力を最初から台無しにするとの見方もある。