インディーズの場合、人手がないという理由もありますが、やはり、最も作品を愛し、大事にしている創り手自身の言葉が一番熱を帯びると思うので。ただ、SNSは苦手だし面倒だと感じている監督も多いですし、力の入れ具合には差があると思います。

徳力 上田監督ほど、きちんと運用している方は見たことがないです。

上田 僕の場合は、もともと文章を書いて発信することが好きなんですよ。アメーバブログを書いていた時代に何度か炎上も経験しましたが、ユーザーからのフィードバックを楽しんでいました。

『カメラを止めるな!』上田監督の信念「反対意見を言う人は敵じゃない」『カメラを止めるな!』公式Twitter 提供:Agenda note
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徳力 ちなみに、ブログではなぜ炎上したんでしょうか。

上田 むかし、ある出版社と共同出版という形態で僕が165万円を支払って、SF小説を出版したんです。その出版までの過程、例えば、編集者とのやり取りを包み隠さずにブログに書いていたら、読んだ人から「出版社のやり方が悪どい」「あたなは騙されている」とコメントがあって。

 出版形態は法的に問題ないですし、僕は悪事を暴くというつもりでブログを書いていたわけではなく、日記感覚で素直に書いていただけだったんですが・・・。

徳力 本人が納得していたので、別に良かったわけですよね。

上田 はい、でも僕が「騙されていないですよ」と書いたら、「騙されている」と一日に100件以上のコメントがきました。2ちゃんねるにも「騙されている人がいる」とスレッドが立って、盛り上がっていました(笑)。

『カメラを止めるな!』上田監督の信念「反対意見を言う人は敵じゃない」上田慎一郎氏 1984年滋賀県出身。中学生の頃から自主映画を制作し、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。 2010年、映画製作団体PANPOKOPINAを結成。現在までに8本の映画を監督し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。2015年、オムニバス映画『4/猫』の1編「猫まんま」の監督で商業デビュー。長編映画『カメラを止めるな!』が大ヒットを記録。10月には映画『スペシャルアクターズ』が公開予定。

徳力 炎上を経験すると、発信することに懲りて辞めてしまう人も多いのですが、上田監督が乗り越えられたのは、なぜですか。

上田 僕のそばに炎上を笑い話にしてくれる仲間がいたからでしょうか。僕は誰かと同居している期間が長かったんですよ。それに、批判だったとしても何らかのリアクションがあった方がクリエイターとしては、ありがたいと思っています。

新作映画であえて「批判的な声」も募った理由

徳力 現在、公開中の映画『イソップの思うツボ』では、良い意見だけでなく悪い意見も言ってもらえるように「#イソップ賛否の賛」と「#イソップ賛否の否」という2つのハッシュタグをつくっています。わざわざハッシュタグをつくってまで、否定的な意見を集めてしまう人を初めて見ました(笑)。

上田 たしかに100館で上映がスタートした規模の映画で、これだけはっきりと否定的な声を促したのは初めてじゃないでしょうか。でも、エゴサーチをすれば、観客の反応はすぐに分かりますし、つくり手側が否定的な意見を包み隠せるような時代はもう終わっていますよね。僕からこの2つのハッシュタグをつくりたいと、配給会社のアスミック・エースに提案したんですよ。