徳力 アスミック・エースもよく受け入れましたね。どう提案されたんですか。
上田 この映画のためには、否定的な意見を見て見ぬ振りをするのではなく、どちらの声もあるという議論を楽しんでもらうことを提示するべきだ、と話しました。
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徳力 上田監督がお話しされていることは個人的にはとても正しいと思うのですが、一般的な商業映画において批判的な声を受け入れることは、関係者の心情的にも簡単ではないとも思います。
上田 そうですね。『イソップの思うツボ』の場合は、少し特別かもしれません。前作の『カメ止め』を好きな人が多く観に来てくれたと思いますが、『カメ止め』と同じような映画を期待していた人の中にはハマらなかった人もいて、モゴモゴしながら感想をツイートしているなと感じたんです。
そのモゴモゴを放っておくと、その人の中に負の感情が溜まってしまいます。それをどうすれば、発散してあげられるかと考えたときに「#イソップ賛否の否」というハッシュタグを思い付いたんです。そうすれば、発信し辛い否定的な意見でも発信してもらえるんじゃないか、と。
強烈な罵倒も、最大の味方に
徳力 否定的な声も受け入れるということですが、上田監督が観客とコミュニケーションをとるときに気をつけていることはありますか。
上田 答えになっているかは分からないですが、僕は「反対意見を言う人は、全面的に敵だ」という極端な考え方に抵抗があるんです。
例えば、考え方が違う人同士が批判しあっているとする。でも、その二人は、同じ食べ物が好きで、その話題では一緒に盛り上がれるかもしれない。それなのに鼻から「あいつとは理解しあえない」「あいつの全てが気に入らない」という姿勢は違うんじゃないかな、と。
徳力 ひとつの意見が違うだけなのに、その人の全部を否定してしまう人が増えている印象はありますね。
上田 そうです。だから自分のことをTwitterで攻撃してくる人に対しても、勝ち負けの戦いをしたいとは思わないですね。
それに先ほど、僕がSF小説を出版して炎上したときに一番叩いていた人が『カメ止め』がヒットしたときに、「ただのビッグマウス野郎だと思っていたけれど、やったんだなお前は」みたいなコメントをしてくれたんです。
徳力 いい話ですねえ。
上田 だから、強烈な罵倒も関心の表れなので、将来的には最大の味方になりえると思っています。クリエイターとしては、「観てきたけど、感想はまあいいや」と突き放されたり、無視されたりするのが一番きついですね。