ファストフード的に楽しむ中国のカフェユーザーたち

 庫迪珈琲の創業者は、陸正耀(チャールズ・ルー)氏という人物だが、彼はかつて瑞幸珈琲の創業者で会長でもあった。

 しかし、20年4月に粉飾決算が発覚し、退任に追い込まれた。瑞幸珈琲でのつまずきから学んだ陸氏は、庫迪珈琲に新しい事業の夢を懸けた。今の庫迪珈琲の快進撃はまさに陸氏の捲土重来(けんどちょうらい)の夢を背負っている。

 ワールド・コーヒー・ポータルは、中国のカフェ市場急成長の背景には消費者の急増もあると説明している。

 中国のカフェを利用する4000人を対象とした調査で、90%以上が週1回ホットコーヒーを、64%が少なくとも週1回アイスコーヒーを飲むと回答したという。さらに、瑞幸珈琲や庫迪珈琲によって、中国ならではの新しいコーヒー文化も作られ、次第に形づけられてきた。

 また、調査に協力した回答者の85%以上が過去1年でコーヒーショップのデリバリーサービスを利用したことがあり、57%がデリバリーを好んで利用している。中国でのコーヒーの消費は、カフェで時間をかけて楽しみながら過ごすというスローフードのスタイルではなく、デリバリーを好むというファストフード的な傾向をもっている。

チェーン店の進出によって、おしゃれなカフェストリートが打撃

 上海には「永康路」という600メートルしかない短いストリートがある。上海に住む外国人が好むバーが集中していたので、以前は「バーの永康路」と呼ばれていた。バーのブームが去った今は、自家焙煎(ばいせん)にこだわったおしゃれなカフェがあちらこちら点在していることで、カフェストリートとして知られている。

 瑞幸珈琲や庫迪珈琲によって作られるコーヒー1杯の単価が10元(約200円)代というファストフード的なコーヒー消費文化は、コーヒー単価が30元(約600円)以上もするこのカフェストリートを直撃した。

『2023年中国都市におけるコーヒー発展報告』という調査リポートによれば、21年1月から23年4月まで、上海のコーヒーショップは6545軒から8530軒へと増えたが、独立系のカフェは元の64.8%から逆に55%へと下がった。

 存続の危機を覚えた永康路のカフェは、これまでの各自の独立した抵抗を捨て、ストリート全体を束ねた対外アピール作戦に切り替えた。各カフェで飲めるコーヒーの飲み歩き券の発行やカフェストリートとしての町の面白さとユニークさの広報宣伝などを通して、カフェ文化の多彩化を人々に印象付ける作戦を展開するようになった。

 この集団広報作戦が成果を上げた。作戦に参加したカフェのそれぞれの負担金は1000元(約2万円)未満だったが、各カフェの売り上げは平均して15~20%増を実現できたという。

 中国のコーヒー消費文化は、これから開花期を迎えるだろう。果たしてどのような消費文化になるのか。これからの楽しみにしたい。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)