例えば、90年から19年までの人口1人当たりGDP成長率は、年平均で日本が0.84%、米国が1.52%で、日本はカナダやフランスに比べてもパフォーマンスが悪い。一方、生産年齢人口1人当たりGDP成長率で見ると、日本は1.44%だ。米国の1.56%よりは若干劣るものの、カナダ、フランスをしのぐ結果になる。

 この違いは、日本の生産年齢人口が、少子高齢化に伴い急激に縮小したことに起因する。働く人々の生産性を示す生産年齢人口1人当たりGDPの成長率では、日本は他の先進国に比肩する。にもかかわらず、一国全体の生活水準を示す1人当たりGDPが伸び悩んだのは、高齢者人口が急増したからだ。

 生活水準を落とさないためには、生産年齢人口の生産性をさらに引き上げなければならない。そのために、短時間労働を余儀なくされている女性就業者に対しては、フルタイム就業を子育てと無理なく両立できる環境を整備することが大切だ。また、65歳以上の就業率を高め、実質的な生産年齢を拡大することも重要である。すでに言い古されたことで、政策にも一部反映されているものの、今後も重視すべき課題だ。

 人口転換に伴う問題こそ、日本が正面から向き合うべき経済課題である。これが、「働く諸国民の富」論文が示唆することであり、わが国の経済政策の前提にすべき考えだろう。

(東京大学公共政策大学院 教授 川口大司)