気に入った土地は移住の候補地に

 筆者もワーケーショナーの一人であり、都心部に住みながら、1年の3分の1ほどは地方に出かけていく。延べ30ほどの自治体を訪れたが、特に気に入った場所は頻繁に通うので、そこは“第二の故郷”にもなった。自治体側にはおらが町を気に入ってもらえたら、リピーターになって、ゆくゆくは移住してほしいという思惑もあるようだ。

 このような施策が奏功し、多くのワーケーショナーを引きつけている自治体の事例を紹介しよう。 

 まずは香川県三豊市。同市は年間を通して瀬戸内海の温暖な気候に恵まれ、安くておいしい海の幸などのグルメがたくさんある。“日本のウユニ塩湖”とも名高い「父母ヶ浜(ちちぶがはま)」が、近年インスタグラムなどでバズり、多くの観光客やワーケーショナーが訪れる。紫雲出山(しうでやま)の頂上から眺める桜も、瀬戸内随一の美しさだ。

 同市ではスタートアップが続々と立ち上がり、地元の経営者と地域外の若手人材が連携しているので街に活気があふれている。なかでも、瀬戸内海の絶景宿「URASHIMA VILLAGE」は、地域の企業を中心に11社が作った新会社が立ち上げた宿泊施設。建物はもちろん、取り組みも評価されてウッドデザイン賞の最優秀賞を受賞した。 

 また、「瀬戸内暮らしの大学」という市民大学も発足し、子どもから大人までさまざまなジャンルを学ぶことができるなど、ローカルながらも刺激たっぷり。

 筆者の知人のカップルも、ワーケーションで訪れたことがきっかけで、都内から三豊市に本格移住した。二人とも会社員だが、ほとんどリモートワークで仕事ができる。たまにある出社日には高松空港から成田空港までLCCの飛行機を使って上京するそうだ。

「二人で全てを折半すれば、都内で暮らしていた頃よりも、リビングコストは3分の2ほどに収まっていると思います。瀬戸内の穏やかな海が好きなので、四国、広島や岡山などの島巡りが楽しくてたまりません。単なる観光だけで行っていたら、移住しようとは多分思わなかったでしょう。ワーケーションで来たおかげで土地の深い部分まで入り込め、スタートアップ界隈の面白い人々と交流できたのが移住の決め手になりました」と、二人は三豊ライフをエンジョイしている。