次に、静岡県下田市を紹介したい。同市は伊豆半島の突端にあり、関東近郊では抜群に透明度の高い海が臨め、キンメダイなどの魚介類がおいしい。サーフィンに適した良い波も来るので、サーファーも数多く訪れる。

 下田市は、自治体主催のワーケーションレクチャーなどを積極的に行っている。2023年12月8日には、5人の有識者が登壇して国内外から集まったワーケーショナーの前で講演を行った。この日のテーマは、「ワーケーションを通じていかに下田を盛り上げるか」だ。

仕事と遊びを融合して、人生の幅が広がった

 登壇者の一人がランサーズ・チーフエヴァンジェリストオフィサー(日本中に「新しい働き方」「新しい組織の在り方」「新しい事業の作り方」を伝える責任者)の根岸泰之さん。根岸さん自身もまたヘビーワーケーショナーで、静岡県下田市に月の半分ほど滞在。それ以外は日本各地を巡る多拠点生活を送る。

 根岸さんが下田滞在中に利用するのが「WITH A TREE」とネーミングされた巨大倉庫だ。建築資材置き場だったこの場所は、サステナブルなモノづくりの拠点として、下田市在住の自営業・梅田直樹さんが運営を行っている。 

 WITH A TREEは以前ほとんど“廃墟”といってもいいぐらい荒れ果てていたが、下田周辺の家やホテルで不用になった椅子やテーブル、照明などの調度品を集めて配置したり、壊れた内部をコツコツと修理したりしたところ、まるでニューヨークのおしゃれな倉庫カフェのようにアップデート。もともと梅田さんの友人だった根岸さんも運営に参画し、招待制の秘密基地となった。現在は、業種に関係なくワークスペースとしても活用できる(事前に面談有り)。

「ベッドも置いてあるので、ここで寝てもいいように、シャワーも自分で手作りしたんです。水しか出ないんですけど(苦笑)。倉庫の中を自分たちで日々進化させているので、大人の秘密基地のようでワクワクします。先日も手が器用な梅田さんが、何気なく作った看板をインスタにアップさせたところ、早速看板制作の依頼が来ました。それ以外にも下田市や近隣の南伊豆町の自治体との仕事も受注したのです。ここでは遊びも仕事もミックスなんです」と根岸さん。

 今のご時世、ワークライフバランスが叫ばれ、公私をきっちり分けるのが主流だ。全国を飛び回るワーケーショナーの中には「ミックス型」が少なくない。根岸さんが梅田さんとともにライフスタイルをSNSで発信するようになってから、WITH A TREEに「自分も一緒に遊びたい、仕事をしたい」と各地から人が集まるようになってきた。

 ワーケーションをするのであれば、まず自分は何を優先するのかを見極めるのが大事だ。「コストを抑えていろんな土地に行きたい」「ワーケーションをした先の地元民や文化に触れ、いずれは移住したい」「面白い人と出会って、新たな仕事につなげたい」など、目的を整理すると良いだろう。

 筆者の私見だが、ワーケーションを続けることで、人生の選択肢の幅が広がる。もし旅立ちを迷っているのならば、まずはワーケーションを誘致している自治体の施設、そして個人運営で地域の人たちが集まる拠点など、リサーチをしてみてはいかがだろう。