私たちはふだん、人体や病気のメカニズムについて、あまり深く知らずに生活しています。医学についての知識は、学校の理科の授業を除けば、学ぶ機会がほとんどありません。しかし、自分や家族が病気にかかったり、怪我をしたりしたときには、医学や医療情報のリテラシーが問われます。また、様々な疾患の予防にも、医学に関する正確な知識に基づく行動が不可欠です。
そこで今回は、21万部を突破したベストセラーシリーズの最新刊『すばらしい医学』の著者・山本健人氏(医師・医学博士)にご登壇いただいた、本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)のQ&Aセッションの模様をお届けします。(構成/根本隼)
人間ドックで「受けたほうがいい検査」とは?
読者からの質問① 現時点では健康を維持できていますが、年をとってきたので「いつ病気になるかわからない」という不安もあります。
人間ドックを受ける際の注意点やアドバイスがあれば、ぜひ教えていただきたいです。
山本健人氏(以下、山本氏) たとえば、胃がんの検査には、バリウム検査(胃造影検査)と胃カメラの2パターンがありますが、初期段階の小さながんを見つけやすいのは胃カメラです。
一方で、バリウム検査は、小さな病変の発見が難しい。なので、バリウムよりも胃カメラを勧める医師が多いと思います。
とはいえ、バリウム検査にもメリットがあります。胃カメラで見つけにくい「スキルス胃がん」という粘膜の下を這うように広がるがんは、バリウム検査のほうが見つけやすいことです。このタイプの病変は、表面だけを見ると正常であるかのように映ることがあるので、バリウムの方が診断精度が高いといわれています。
また、「大腸カメラ」も医師がよく勧める検査です。なぜかというと、がんの中では「大腸がん」になる人が日本で1番多いからです。大腸カメラでは、95%以上の大腸がんを見つけることができます。
なお、人間ドックを受ける前に、まずは市町村で定められた「対策型がん検診」とよばれる「がん検診」を受けるのがお勧めです。受けることで死亡率が下がると証明されたものが選ばれているからです。一般的には、5大がんと言われる、肺がん、胃がん、大腸がん、子宮頸がん、乳がんが含まれています。前述の胃カメラやバリウム検査は、このがん検診でも受けられます。
あらゆる病気への対策を万全にしようとするのは無理があります。ですので、がん検診に選ばれたがんや、疾患頻度の高いがんから優先的に対処するのがよいでしょう。
腹水が多い=炎症の程度が重い
読者からの質問② お腹の中に水がたまる「腹水」という現象は、なぜ起きるのでしょうか?
山本氏 転んだときなどにできるすり傷から、「透明な液体」がにじみ出てくるのと同じメカニズムだと考えるとわかりやすいです。
この透明な液体を「浸出液」と呼びますが、炎症によって傷ついた部分を修復するために、血管から浸出液が染み出してくる現象は、人体のどの箇所でも起きるものです。
なので、閉鎖空間であるお腹の中にがんが広がって、「がん性腹膜炎」という炎症が起きると、お腹の中に浸出液がたまっていきます。これが「腹水」という現象です。がんにかぎらず、感染症などさまざまな病気によっても引き起こされることがわかっています。
「腹水がたくさんたまっている=お腹の中の炎症が広範囲に進行している」ということなので、がんにしろほかの病気にしろ、症状が重い人ほど腹水の量が多くなってしまうのです。
(本稿は、ダイヤモンド社「The Salon」主催『すばらしい医学』刊行記念セミナーで寄せられた質問への、著者・山本健人氏の回答です)