後悔しない 医療・介護#20Photo by Masami Usui

認知症グループホーム(認知症対応型共同生活介護)のある入居者は、食材料費や共益費などの仮払いである「預かり金」について約5年分300万円の返金を受けた。これだけの大金を過剰請求されていたのである。他のグループホームにおいて、同様に過剰請求されているケースが山のようにあることは想像に難くない。特集『後悔しない医療・介護』の#20では、グループホームの落とし穴に迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)

やせ細っていく母親
食材の領収書開示を求めた

「なんでこんなに痩せ細っていくの?」。田山恵美さん(仮名)は母親の姿に困惑した。母親は2011年、認知症グループホーム(認知症対応型共同生活介護)に入居した。

 認知症グループホームは認知症を発症した高齢者のための住まいだ。入居者は家事を分担するなどして共同生活を送りながら、認知症のケアを中心に職員から介護サービスを受ける。1施設の定員が少ないこともあり、2000年には1000施設にも満たなかったものが、今では1万4000施設を超える数まで増えている。

 田山さんの母親が入居したのは東京都世田谷区に当時新設された「マザアスホーム だんらん世田谷」。ミサワホームグループで介護サービスを展開するマザアスが運営する施設だ。

 身内を介護施設に入れるのは初めてで、当初は分からないことだらけだった。そんな中で入居後半年すると、不審な点に気付いた。母親が会うたびに「おなかがすいた」と言ってくるのだ。当初は「食べたことを忘れているんだろう」と軽く聞き流していた。しかし見た目も明らかに変わってきたことから、慌てて体重を調べてみた。すると半年でおよそ10キログラム減。30キログラム台にまで落ちていた。

 病気が疑われるような身体の異常は見られなかった。そして母親だけではなく、他にも痩せていく入居者がいた(マザアス側によると、体重が10キログラム以上減少したケースは入居4年程度の間に約12キログラム減少した別の入居者1人のみとしており、その入居者は体重減少後も適正体重の範囲内。入居者たちの体重推移表を確認したという田山さんの事実認識と異なる)。

 母親は十分な食事が取れていないのではないかと心配になったのをきっかけに、田山さんは施設のカネの使い方に疑問を抱くようになった。

 施設入居に関わる月の支払いは25万円ほど。内訳は家賃8万4900円、預かり金が8万3950円。この他に別途、介護保険サービス利用の自己負担分が月約3万円、訪問医療にかかる診療代や処方薬の自己負担分、個人的に購入した物品(おむつなど)の費用などがかかる。

 預かり金は、要は仮払い。食材料費で月に4万4950円(1日1450円×31日)、水道光熱費で月に1万8000円、共益費で月に2万1000円を事前に預け、足りなくなればその分が徴収され、余剰があった場合は利用者に返還される仕組みだ。

 共益費は入居者が共同で使うトイレットペーパー、食器用洗剤、洗濯用洗剤、電球といった日用品などに使われる。入居2年目の12年度は預かり金の1年間の余剰分として約3万6000円が施設から入居者へ返還された(12カ月在籍入居者平均額)。

 十分な食事を口にできているのか。また、預かり金の返還額が少な過ぎるのではないか。こうした疑念を抱いた田山さんは、施設側に食材料費など購入したものの領収書について開示を求めた。