中小企業が独力で退職金制度を設けることが難しい場合、共済制度を利用して社員の退職金を積み立て、準備することができる。中小企業にとっては非常に便利な仕組みだが、共済から支払われる退職金が、会社の規定よりも多い場合、「払いすぎたので差額を返金してください」というのはOKなのだろうか。退職する社員が「イヤです」「無理です」と拒否したらどうなる?(社会保険労務士 木村政美)
地方都市にある創立30年の機械部品製造会社で、従業員数50人。ほとんどは労働時間が週30時間未満のパート社員で、正社員はBを含めて5人のみ。
<登場人物>
A:甲社の正社員。25歳。
B:Aの高校時代の友人。25歳。
C:甲社の専務。人事労務の責任者。
D:甲社の顧問社労士。
ある日、親友から驚きのメールが届いた
Aは地元の専門学校を卒業後、甲社で機械オペレーターとして働いている。甲社は地元の企業の中では社員に対する待遇は良く、基本的に土日祝日は休み、勤務時間は8時30分から17時30分(休憩時間は1時間)までで、残業は月に4~5時間しかない。Aは実家から自家用車で30分かけて通勤しており、残業しても18時半には帰宅できる。そして昨年4月、平社員から主任になり、パート社員たちの業務指導を任されるようになった。
昨年9月上旬。主任の仕事にも慣れ、毎日のんきに暮らしていたAの元に、突然親友のBから「久しぶり!今オーストラリアにいまーす!」とメールが入った。
「3カ月前から農園でバイトしてます。1日6時間、週5日働いて月収は50万円。すごいでしょ?休みは仲間とBBQしたり、ドライブ行ったりと遊び三昧。日本にいるより天国だよ」
さらに、「働いている農園のオーナーがメチャいい人で、『人手不足だから君の友達も連れておいで』っていつも言われてる。こっちに来ないか?」とあった。
衝撃の内容に、Aは頭がクラクラした。
「アルバイトで月50万円だって?マジかよ……自分の月収の2倍以上じゃないか!おまけに休みもエンジョイしてるなんていいなあ!でも、そんな簡単にオーストラリアで働けるものなのか?」とメールを返した。するとBは
「オーストラリアで働くにはワーキングホリデー制度を使えばいいし、農園の仕事はすぐに覚えられる。それにA君は高校時代英語得意だったから、会話も心配ないよ」と教えてくれた。
その後も幾度となく、Bから誘いのメールが届いた。Aはそれを読むたびに、Bの楽しそうな様子と自分の毎日の生活を比べては悶々とするようになった。
「仕事は面白くないし、休みの日も家でゴロゴロしてるだけでつまんない。Bも誘ってくれているし、思い切って行っちゃおう」