伝説の漫才師の機転に私は救われた
こういったことを防ぐために、頭の回転の速い人は、まずは空気を和ませて、まわりの人を冷静にさせるのです。そうすることによって、二次被害のリスクを下げることができ、トラブルを冷静に対処できます。
このことを私は師匠たちとの経験を通して学びました。かつて、私が駆け出しの漫才作家だった頃の話です。当時の私はオール阪神・巨人さんの台本を書かせていただいておりました。
ある生放送番組にお二人が出たときの話です。最後の大トリとしてお二人と私は、番組側から言われていた10分以内に収まる漫才ネタを用意していました。
楽屋では、いつものように最終調整として、私がストップウォッチを手にして「はい、どうぞ!」と声をかけると「はい、どうもオール阪神・巨人です」と軽快にネタがはじまります。最後の「ええかげんにせえ!」という阪神さんのツッコミで終了です。巨人師匠に「こんなもんやろ、なんぼ?(何分?)」と聞かれ、ストップウォッチを見るとなんと「9分59秒」。完璧です。
巨人師匠「よっしゃ」
阪神師匠「ええんちゃう?」
こうして、お二人は楽屋で出番を待っていました。
ところが、出番が近づいてきたとき、番組のディレクターが走って来て「申し訳ありません。生放送が押してましてネタ時間8分でお願い致します」とだけ告げて去っていきました。このとき、すでに出番まで15分を切っています。
今から細かい調整をすることは不可能なので、作家である私は大いに焦りました。「お客さんは楽しみにしているのにどうしよう。2分なんか調整できない」そんな気持ちです。
ところがお二人は焦る私やまわりのスタッフを見て「大丈夫。まずは落ち着こう」とにこやかに言うのです。その一言で我を取り戻した私はどこをカットするかお二人と緊急打ち合わせです。話の展開が不自然にならないようにカットするところと繋ぎのセリフを慌ただしく決めて舞台へ向かわれたお2人。
なんとこのまま、本番の舞台では8分のところを「7分59秒」で完璧な漫才を披露しました。その姿を楽屋で見ていた私は鳥肌が立ちました。
このことからもわかるとおり、お二人は、日頃の稽古から手を抜かないのはもちろんのこと、トラブルが起きてもまわりを和ませ、冷静にさせる力がありました。このときにあらためて私は、オール阪神・巨人さんの偉大さを知るとともに、トラブルのときこそ一呼吸おくことの重要性を学びました。
皆さんもトラブルに巻き込まれてしまうことがあるかと思いますが、そういったときこそ冷静にという意識を持っておいていただけると幸いです。