雪景色を眺めながらザクザクと雪をふみしめて登る雪山は、童心に返る喜びがある。樹木が葉を落とす冬山は、展望が良いのもうれしい。国内外の山に挑み、山登りを楽しんできたイラストレーターの中村みつをさんにおすすめの冬山を聞いた。(取材・文/フリーライター 増澤曜子)
ウサギやタヌキと新雪を踏んだ
少年時代の雪山
登山歴約60年、国内外の名山に挑みながら、ほのぼのとしたイラストやエッセーを発表し続けている山男の中村みつをさん。冬山の魅力をこう語る。
「山は春夏秋冬いつもそこにあるのですが、冬山は格別に美しいと思います。山登り愛好家の中には、冬山しか登らないという人もいるぐらいです。雪で覆われた山は、春夏秋とは風景が一変します。道も草地も岩肌も区別できない。無駄なものがない引き算された自然の中で、気持ちがシャンとしますね」
中村さんが初めて冬山に登ったのは14歳のときだった。東京都奥多摩の川苔(かわのり)山である。前年の5月に同級生5、6人で初めて川苔山に登り、くたびれはてて「もう山なんてこりごりだ」と言っていたのが、冬の山も行ってみようよ、ということになったのだ。
バスケットシューズにナップザックを背負って朝4時半集合。中央線に乗り立川で青梅線に乗り換え「古里(こり)」駅で下車、川苔山を目指した。前夜から降り続く雪で視界は一面真っ白。
「みんな雪だ雪だと、大はしゃぎでした。しかし、膝までの雪の中を登るうちにだんだん無口になり、やっと山頂にたどりつくと避難小屋に飛び込みました。ナップザックのひもが凍って開けません。なんとかこじあけると、水筒もおにぎりも凍っています。すると、大人の男性が入ってきてバーナーでラーメンを作って食べ始めました。これがいい匂いがしておいしそうでね。しかしその人は、さっさと食べ終わると、僕たちに『このままいたら死ぬぞ。早くお下りなさい』と言って、行ってしまったのです」
学校のように、大人が世話をやいてくれるわけではないのだ。中村少年たちも下山を始めるが、寒さと空腹と不安でとうとう一人が「こんなの嫌だよ」と泣き出す始末だった。
「みんなではげまし合いながら下山して、駅の食堂にかけこんで食べたカレーうどんが、温かくて本当においしかった。そして、安堵感とともに、オレたちすごいことをしたんだという達成感が湧いてきました。大人に近づいた気がしました」
その後、何度も雪山や氷壁に登っている中村さんだが、登山中はつらいことがあっても、後になるといつもじわじわと面白さがよみがえるという。
「川苔山に登ったのは、ちょうど東京が何年ぶりかの大雪に見舞われたときで、とにかく新雪を歩くのが楽しかったですね。誰も歩いていない雪の上をザクザク歩く。ときどき、点々と小さな足跡があって、ああ、ウサギかタヌキもここを通ったんだなあと」
川苔山はコースが多彩で人気があり、決して難しい山ではないが、約56年前の中村少年たちの真似はせず、登山靴と防寒はしっかり準備して向かいたい。