標高100メートル以下の「超低山」
都会のど真ん中にもある!

 荒幡富士は、標高119メートル、比高(山頂と登山口の高低差)約10メートルの超低山である。埼玉県所沢市の荒幡浅間神社内にある。

「超低山は、標高100メートル以下、比高50メートル以下で、低山と呼ぶには小さすぎる山です。30年ほど前に、出版社での打ち合わせの帰りに思いついて港区の愛宕神社に寄ったのですが、そのとき、これも山だ! とひらめいたのです。都会のド真ん中にある標高26メートルの愛宕山に登って僕はわくわくしました。それから、東京、関東を中心に、こつこつと超低山を見つけています」

 さまざまな山に挑戦してきた中村さんが、持ち前の探求心で見いだした超低山はすでに100山を超え、『東京まちなか超低山』(ぺりかん社)を上梓し、現在はカルチャーセンターで講座を開いている。

「超低山登山は、暑い夏よりも冬がおすすめです。雪が降っても道に迷ったり遭難する危険もありません。その中のひとつ荒幡富士は、富士塚と呼ばれる疑似富士山です。富士塚は江戸時代に多く作られましたが、これは明治時代のものです」

 1合目から登りはじめ10合目が山頂である。山頂からは、本物の富士山が見える。

「もともと富士塚は富士山が拝めるところに造られたのですが、都内ではビルが立ち並び現在は山頂に登っても富士山が見えないところが多い。今でも見ることができる荒幡富士は貴重ですね」

 山頂から富士山を拝んだら、東に向かって歩くと八国山(東京都)がある。この辺りは八国緑地と呼ばれる里山で、アニメ映画「となりのトトロ」の舞台になったところだ。

「深い森ですが住宅が近く、道に迷うことはありません。雪遊びには絶好ですね。斜面ではソリがなくても、お尻にビニール袋を敷いて滑っても楽しいです。木々の枝が雪でキラキラ光るのを見ながら、雪道を歩くだけでも気持ちが高揚します」

 八国山は標高89.4メートル、比高約20メートル。やはり「超低山」だが、もともと上野、下野、常陸、安房、相模、駿河、信濃、甲斐の8カ国の山々が眺望できたことが名前の由来だけに、見晴らしがよい。荒幡富士から八国山は、家族で楽しめる超低山の縦走である。

登山歴60年の達人が陶酔する6つの冬山、白く輝く雄大なパノラマ荒幡富士は明治時代に築かれ、今でも地域の人たちが大切に手入れをしている  Photo by Mitsuo Nakamura