また、AI投資家によるレポート「State of AI Report 2023」によれば、NVIDIAのチップは他社のすべてのチップを足し合わせた数の19倍、AI関連の論文に登場しているとのこと。同社の1世代前のGPUセット「A100」や最新の「H100」は、IT大手やTeslaなどの新興企業、研究者に高いニーズがあるといいます。
当然、他社も手をこまねいているわけではありません。AMDは、2023年12月に開催した「Advancing AI」イベントでAIのための新しいプロセッサー戦略を披露。AI用の新チップの受注が好調で、株価も上昇傾向にあります。
またGoogleは以前から「TPU(Tensor Processing Unit)」と呼ぶ、機械学習、ディープラーニングに特化したプロセッサーを開発しています。TPUは従来のCPU、GPUと比べて機械学習のモデルをより高速かつ効率的に実行できるという特徴を持ちます。
“天才”ジム・ケラー氏が参画した
スタートアップTenstorrentの可能性
もうひとつ、私が注目しているのが現在のAIの中心地ともいえる街、カナダのトロントに本拠を置くTenstorrent(テンストレント)というAIスタートアップ。同社が開発するのは、AIのトレーニングと将来のアルゴリズムへの適応を支援する先進的なプロセッサーです。
ラピダスとも提携する同社は、“天才”ジム・ケラー氏が2021年1月に参画したことでも有名です。ケラー氏は、プロセッサー業界では伝説のアーキテクトエンジニア。米DEC、AMD、Apple、Tesla、Intelなど、数々の移籍先企業でプロセッサー設計にイノベーションを起こし、業績を大きく向上させてきた人物です。2021年、テンストレントのプレジデント兼CTO(最高技術責任者)として着任し、2023年1月にはCEOに就任したケラー氏の次の動向に注目が集まっています。
ケラー氏は、NVIDIAによるGPU(GPGPU)によるAIへのアプローチが必ずしも理想型ではないと語っています。ケラー氏はGPUより高い電力効率を発揮するプロセッサーが必要と考え、設計しているといいます。後に詳述しますが、AIモデルの実行に使われる消費電力、エネルギー消費量の増加は環境への影響も懸念されます。より低コストで効率的にAIモデルを実行できるプロセッサーが実現すれば、NVIDIAを置き換える存在になる可能性もあるわけです。