ドラッカー経営の本質論から
管理会計の要点を説く
――本書では、7つのコラムで、ドラッカー先生と管理会計の関係について論じています。
ドラッカー先生の経営に関する本質論があったから、私はこの本が書けました。その本質論から、マネジメントにおける管理会計の使い方を提示しています。詳しくは、本書をご参照いただきたいのですが、前述したABC会計に加えての6つの要点を列挙しますと、次の通りになります。
(1)全体が部分から成り、かつ部分の集合が全体になるような物理的なものは分析によって本質が理解できます。事業を数値で表している会計の数字は物理的なものであり、分析によって本質が理解できます。管理会計は事業活動を部分に分け、そこから事業を分析していくものです。
(2)未来のことは誰にもわかりませんが、既に起こった未来を先取りして手を打つことは可能です。管理会計によって、例えば一事業所で起きた変化を見て、それに対応することで未来を先取りできます。仮に、ある事業所である製品が、他事業所比や前年比で、売上高が伸びていたとしたら――。その「原因」を分析すれば、他社に先駆けて対応策を打つことができます。
(3)目標や予算は人のエネルギーを動員するために必要です。本書では、予算の重要性を説き、予算の立て方の順序を論じましたが、目標としての予算を数字で示すことにより、従業員のやる気やイノベーションを促すことができます。
(4)不確実な世の中では、目標を立て、予実差異をフィードバックすることが有効です。不確実性の時代といわれる今日ほど、予算と実績の差異である予実差異を週次や月次で会社全体で共有することで、(2)の変化や未来の先取りが可能になってくるのです。
(5)企業の存続のため、利益こそ重要です。その利益創出の前提として、マーケティング、イノベーション、人的資源、資金、物的資源、生産性、社会的責任に関する目標設定が必要です。これらをマネジメントしていく上で、活動を「見える化」する管理会計が重要になっていきます。
(6)意思決定とは、いくつかの案からの選択です。その選択のために、会計でのシミュレーションで戦略案や投資案の選択肢を事前に検討することができます。本書では、「投資評価の方法」と「事業再生の考え方」は、それぞれ章を設けて詳述しました。
――最後に、本書の特徴を教えてください。
前編の冒頭に述べましたが、本書は、既刊の「財務3表シリーズ」と同様に、すべての企業に共通する、「お金を集める」→「投資する」→「利益をあげる」という3つの活動を統合的に見て、管理会計を理解してもらえることを意識して書いています。
そして、それらの3つの活動を会計として表している財務3表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)が、管理会計と連動していることを解説しています。
図表を多く使い、いくつもの事例を出し、専門家以外の人でも管理会計が取っ付きやすくなるように工夫しています。本書を通じて、普通のビジネスパーソンが管理会計の面白さを知って、日々の仕事で活用してもらえれば幸いです。(了)
東北大学機械工学科卒業後、神戸製鋼所入社。海外プラント建設事業部、人事部、企画部、海外事業部を経て、米国クレアモント大学ピーター・ドラッカー経営大学院でMBA取得。独立して2001年ボナ・ヴィータ コーポレーションを設立。中小企業の経営支援や大手企業の管理職教育を担っている。著書に『新版 財務3表一体理解法』『新版 財務3表一体理解法 発展編』『新版 財務3表図解分析法』(いずれも朝日新書)、『現場のドラッカー』(角川新書)、『ストーリーでわかる財務3表超入門』(ダイヤモンド社)などがある。