急成長したESG投資に合わせた企業情報開示の動きが活発化している。一方で、「異なる分野のE(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)を一つにまとめるのは無理がないか」「社会課題解決のために投資リターンが抑制されるのを良しとするか」などの根本的議論は依然ある。こうした中、問題の所在を明らかにし、ESG投資の発展の道筋を示す、時宜を得た書籍が発行された。その『ESG投資の成り立ち、実践と未来』(日経BP 日本経済新聞出版、伊藤隆敏氏との共著)の著者の一人、本田桂子氏をインタビューした(聞き手・文/ダイヤモンド社 論説委員 大坪亮)。
ESG投資は立場の違いから
それぞれに解釈されてきた
――本書ご執筆の動機を教えてください。
ESG投資の捉え方が、世の中でまちまちだったので、定義や評価をきちんとした方が良いと思ったのです。ESG投資は、長期的に見た将来収益・キャッシュフローへのESGといったこれまで考慮が十分にされてこなかったものを反映した投資です。しかし、ESG等を考慮しても短期的な収益、ひいては株価への影響を危ぶむ人から、投資リターンは多少下がっても社会課題の解決のために民間資金を活用すべきだと社会に働きかける人まで、ESG投資は立場によって都合の良いように解釈されてきています。定義や考え方が定まっていない状況では、議論がかみ合わず、ESG投資が良い方向に発展していきません。
私は20代~40代にはマッキンゼー&カンパニーで、クライアント企業の価値創造に向けた仕事を多くしてきました。また、50代になってからは世界銀行グループのMIGA(多数国間投資保証機関)の長官として、経済格差や気候変動などの社会課題の解決に寄与する責務を担ってきました。民間機関と公的機関のミッション(使命)を各時期に負ってきた経験があり、双方の立場からのESG投資に対する期待が肌感覚でわかります。
ですので、それぞれの立場の人がESG投資を自らに都合の良いように活用したいという思いや、いろいろな人の思惑があって曖昧な状態になっている事情もわかるのですが、このままではESG投資が建設的な形で発展していかないのではないか、と長い間懸念していました。
そんな折、MIGA長官を退任する時期を迎えた2019年に、コロンビア大学から、当時勃興していたインパクト投資についての授業を担当してもらえないかとお話を頂きました。それに対して私は、より市場規模が大きく、重要な存在に成長していて、なおかつ、これまでの自分の経験を生かせるESG投資についての授業ではどうかと返答し、今日に至っています。その講座を基に、同じコロンビア大学で教えられている伊藤隆敏先生と共に、世界の議論が見えにくいと思われる日本の方向けに著したのが本書です。