1万人超の職員を抱える巨大組織であるNHKの“本丸”が、東京・渋谷にある放送センターだ。ここでは、放送関連業務のほか、連続テレビ小説や大河ドラマの撮影も行われてきた。しかし、目下、ドラマ部門の埼玉への移転構想が進んでいる。特集『変局!岐路に立つNHK』(全8回)の#6では、同部門の現場職員から上がる反発の声とNHKが進める計画の中身に加え、移転構想の陰にある社内序列をひもといていく。(ダイヤモンド編集部 下本菜実)
前田体制下で急浮上した
川口スタジオ建設計画
埼玉県川口市。一軒家が立ち並ぶ住宅街に2基の巨大クレーンが突然、姿を現す。高さ3メートルの白い壁で囲まれているのは、約2万2000平方メートルの土地だ。2024年3月下旬、工事はまだ基礎の段階なのだろう。作業員の姿はまばらで、セメントの流し込み作業が行われていた。
掲示された建築計画にある建築主は「日本放送協会会長 稲葉延雄」。26年3月にNHKの新スタジオが完成する。スタジオは地上4階建てで撮影スタジオのほか、編集施設も備えるものだ。
スタジオが建設されるのは、NHKの川口ラジオ放送所の跡地に03年にオープンした「SKIPシティ」の一角だ。「SKIPシティ」はNHKと埼玉県の共同開発プロジェクトで、映像資料の展示などを行うNHKアーカイブスのほか、川口市立科学館、埼玉県産業技術総合センターなどが存在する。
これまでNHKのドラマ作品などが撮影されていた渋谷放送センターでも、建て替え工事が進んでいる。建て替え計画が最初に明らかになったのは16年、籾井勝人会長の体制下でのことだった。当初の計画では、映像スタジオは渋谷放送センターの制作事務棟に入居するとされていた。しかし、前田晃伸会長体制下の20年6月に突如として、川口スタジオの建設計画が発表された。つまり、スタジオを川口に移転するというのだ。
さらに、足元の計画は大規模な移転を伴うものになっているもようだ。制作部門のある社員によると、スタジオだけでなく、ドラマ部門全体を川口に移転する形で進んでいるという。
だが、ドラマ部門の川口移転を巡っては、制作の現場から不満が噴出している。制作現場の職員が懸念するのは、職員の生活や働き方の変化だけでなく、コンテンツの質への影響である。
ダイヤモンド編集部は、NHKが21年11月に制作部門の職員55人を対象に実施し、そのうち41人が回答したアンケートの結果を入手した。次ページでは、アンケートの中身を基に職員の懸念や不満を紹介する。また、今回の移転計画の背景に横たわる、ドラマ部門の今後を左右しかねない局内の歪なパワーバランスについても明らかにする。