賃上げの嘘!本当の給料と出世#10Photo:AFLO

これまで流行の最先端を追ったり、富裕層に特別なサービスを施したりする“やりがい”が百貨店で働く社員のよりどころになっていた。好業績を受けて賃金や初任給は軒並み上昇したものの、流通業界の中では賃金は高いとはいえない状況だ。待遇面で差がつく中、人材を引き付けて成長し続けることができるのか。特集『賃上げの嘘!本当の給料と出世』の#10では、賃上げの動向を明らかにするとともに、流通業界の賃金格差と百貨店を取り巻く課題について迫る。(ダイヤモンド編集部 宮井貴之)

やりがいアピールも新卒採用は苦戦の百貨店
業績好調でさらなる賃上げはあるのか?

「憧れを、自分のものにする場所。」――。日本百貨店協会が2022年6月からインターネット上で配信を始めた新卒の採用動画では、百貨店で働くことのメリットをこう表現した。

 動画には、富裕層をもてなす外商担当者、話題をつくり出すために催事を企画する若手社員、地方の魅力を発信するために商品開発を手掛けるバイヤーらが生き生きと仕事する様子が収められている。

 日本百貨店協会の広報担当者は動画作成の狙いについて「人口減少で採用難易度が上がる中、すこしでも興味を持ってもらうため」と説明する。百貨店だけなく、製造や金融などと横並びで比較する就活生が増えており、百貨店を選ぶ学生が減っているのだという。

 夢や憧れだけで人を集めるのが難しくなってきている……。それならば「給料」を高くしたいところだが、そう簡単にはいかない事情が百貨店業界にはある。

 百貨店の業績は、製造業や他の流通業界の企業と比べても好調だ。

 三越伊勢丹ホールディングスが5月14日に発表した24年3月期連結決算は、本業のもうけを示す営業利益が前期比83.6%増の543億円で、過去最高を更新。高島屋(24年2月期)や阪急阪神百貨店を運営するエイチ・ツー・オー リテイリング(24年3月期)が発表した純利益もそれぞれ過去最高を更新するなど、好業績が相次いだ。

 好業績の要因となったのは、いずれも訪日外国人による高額商品の爆買いだ。円安ドル高を背景に高級時計や、化粧品などが売れた。好調は続いており、日本百貨店協会によると、24年4月の百貨店免税売上高は前年同月比2.8倍の599億円となり、単月として14年10月に現行の統計が始まって以来過去最高を更新した。購買客数も4月は初めて50万人を超えたという。

 この好業績は従業員に還元されているのだろうか。次ページでは、百貨店の賃上げの動向を明らかにするとともに、流通業界の賃金格差と、百貨店のさらなる賃上げ実施のために解決すべき経営課題について迫る。