賃上げの嘘!本当の給料と出世#13Photo:PIXTA

国内製薬最大手ある武田薬品工業のMR(医薬情報担当者)はかつて「国内最強の武田軍団」と呼ばれ、業界随一の高給取りでもあった。エース級は成果を出せば出しただけの対価を報酬で得た。しかし、今のエース級の稼ぎは、当時に遠く及ばない。特集『賃上げの嘘!本当の給料と出世』の#13では、武田薬品のエース級MRが実質減収になり、さらに出世のゴールまで失った実情に迫る。また、不遇に差し込んだ“一筋の光明”の正体を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 臼井真粧美、野村聖子)

春闘で勝ち取った賃上げは
「焼け石に水でしかない」

 2024年の春闘で製薬各社は総じて賃上げをしており、国内最大手である武田薬品工業も漏れなく昇給で妥結した。ただし、他業種に比べると小幅な賃上げが多く、武田薬品も同様。稼ぎを生み出す新薬が不足している上に、医療財政が逼迫して薬価の引き下げ圧力が強いためだ。

 医療用医薬品は国が値段を定める公定価格。人件費を捻出するからといって企業が自由に価格を決められないのである。

 武田薬品においては、正社員1人の1カ月平均昇給額として労働組合側は2万円を要求し、そこまでは至らない1万5200円で妥結した。1万6600円となった23年の実績を下回ったのは、やはり医薬品売り上げの状況が厳しいからだ(下表参照)。

 そんな中にあっても「上級幹部」の報酬は異世界で、クリストフ・ウェバー社長兼CEO(最高経営責任者)の役員報酬は約17億円(23年3月期)にも上る。他の外国人取締役も1人が約10億円、もう1人が約7億円と高額報酬を手にしている。

 ウェバー社長の体制下で外国人を含め外部出身者の鼻息は荒く、生え抜きは幹部ポストに就き損ね、恨み節を唱えながら退社する者が後を絶たない。その様は「実力主義」「成果主義」という言葉で正当化されるものではある。

 実際、一般の会社で管理職に相当する「幹部社員」には若くして登用される者もいる。登用後に成果が出せていないと判断されれば、外部出身者だろうと容赦なく降格させられたり、退職勧奨に直面したりする。

 上級幹部、幹部社員、非管理職である「一般社員」の間で報酬に歴然とした社内格差がある一方、格差が縮まり「平等主義」の様相を呈した職種がある。営業を担うMR(医薬情報担当者)だ。

 かつて武田薬品のMRといえば、「国内最強の武田軍団」と呼ばれ、競合すらも憧れるような存在だった。24時間戦うモーレツな仕事っぷりで成果を出す対価として、業界随一の高給取りでもあった。

 そんな武田軍団のエース級MRの稼ぎは今、当時に遠く及ばない。春闘で勝ち取った賃上げなど「焼け石に水でしかない」と彼らは憤りを見せる。

 次ページでは、職種内の報酬格差が縮んでエース級MRが割を食い、出世のゴールまで失った実情に迫り、過去と現在の年収実額も詳らかにする。また、不遇に今春差し込んだ“一筋の光明”の正体を明らかにする。