「改良のレスポンスがとても早かった。初期モデルを2カ月で改善するなどそのスピードが毎回とても速い。同時に他国の先行モデルを真似することなく、独自の開発で推し進めたことに敬意を表したい」(ベトゥ)

期待の19歳、垣田真穂が乗るTCM-2 ©山口和幸期待の19歳、垣田真穂が乗るTCM-2 (c)山口和幸

 開発陣の最重要テーマは空力性能の向上だったが、もう1点、ベトゥが求めたものがある。種目に関係なくすべての選手が乗れる自転車を作ることだ。スプリント系の短距離種目、エンデュランス系の中長距離種目のそれぞれに特化した自転車ではなく、どんな種目にも投入できる完璧なものでなければ意味がない。

 東京五輪ではブリヂストンサイクルが短距離のTS9と中距離のTE9モデルを提供した。しかし、その後の世界的な流れとしては、競技自転車先進国の英国をはじめとした各国は種目に限定した自転車は作っていない。すべての領域で速度が速い自転車を時代が求めている

「速く走るための道は1つしかない。空力と剛性の両立だ」(ベトゥ)

 どんな種目にも使えるためには強さが必要だ。東レが誇る高強度かつ高弾性の炭素繊維「T1100G、M40X、M46X」が採用され、選手が踏み込むときにパワーのロスを減らして推進力に変えるための開発が続いた。

非常識的な「左側チェーン」は
どのようにして生まれたか?

 カーボン積層分野のエンジニアとしてのキャリアを持つ東レ・カーボンマジックの間宮健が今回のプロジェクトマネージャーだ。

「一般的なロードバイクの作り方はコストを抑えた工程を採用するが、今回は職人が手作業で行うので1台を作るのに3週間を要する。駆使するのはオートクレーブプリプレグ製法。その製法が最もカーボンの実力を発揮できる作り方だからです」

 初期の開発段階では、毎月のように風洞実験を繰り返した。左回りのトラック競技場。斜め左から常に空気がぶつかってくることなどが明らかになっていく。そんなあるとき、常識とは反対の左側にチェーンとギヤを移動させると「空力のゲイン」が高まることが判明した