バブル崩壊、不良債権、金融庁検査…
作品に詰まった金融不安時の緊張感
では実際に元バンカーの池井戸作品ファンは、どのようなところに魅せられているのか。
三井住友銀行で危機管理や融資、企業再生を担う部署を渡り歩き、専務執行役員として審査の責任者を務めた沢田渉氏は、「私の銀行のキャリアの前半は『花咲舞』、後半は『半沢直樹』でした」と振り返る。
沢田氏は1986年に旧住友銀行に入行。バブル最盛期と崩壊後の金融危機を目の当たりにした。窮地に陥った取引先の再生や不良債権問題に奔走した経験と、そのときに得たノウハウを生かし、現在は国内中小企業の再生支援を手掛けている。
その沢田氏は「今も不祥事で存在意義が問われている企業が幾つかありますが、組織の論理にのみ込まれずに言うべきことを言う花咲舞のような人がいたら、不祥事は防げたと思います」と話す。
ロイヤルホールディングスの菊地唯夫会長も、池井戸作品をほぼ全て読破している大ファンだ。
菊池氏は86年に日本債券信用銀行に入行した元バンカーで、同行の不良債権問題による経営危機と破綻、頭取の逮捕までを、頭取秘書として経験した。
「破綻へ向けて不安が広がる中でも、時には軽口を言ったりして行員を鼓舞していた当時の頭取の様子を鮮明に覚えています」と当時を懐かしむ。
沢田氏と菊地氏は在籍した銀行は違うものの、巨額の不良債権に直面し、不安が広がっていた当時の銀行業界の空気を吸っていた。それ故に半沢直樹シリーズなどで描かれる不良債権や金融庁検査の描写を読むと、当時の緊張感がよみがえると話す。
新連載「ブティック」がスタート
M&A仲介会社を舞台にした人間ドラマ
広島県安芸高田市長を務めてきた石丸伸二氏は2006年に三菱UFJ銀行に入行した元バンカーだ。石丸氏といえば、「恥を知れ」と発言するなど、歯に衣着せぬ物言いで有名だ。
「『倍返し』のようなインパクトのある言葉を選ぶために、相当時間をかけました」と話す。半沢直樹が見せる、不正に対して怒りながら理性と論理を忘れない姿勢を、強く意識しているという。
『週刊ダイヤモンド』6月8日・15日合併号より、池井戸潤氏の最新作『ブティック』の連載が始まった。本作の舞台は企業の合併・買収の仲介を専門とする会社だ。主人公である若きエリートバンカー、雨宮秋都を中心に、どのような人間ドラマが繰り広げられるのか。次号以降、その展開に目が離せない。