EV失速でどうなる? 電池覇権#1Photo:AFP=JIJI, JIJI

世界の電気自動車(EV)市場に失速ムードが漂っているのとは対照的に、車載バッテリー市場の投資競争は激化している。経済産業省は日本の電池産業を全面的にバックアップする構えを見せており、今年度は5000億円にも上る巨額の補助金を投じる予定だ。EVの販売が減速しているにもかかわらず、車載バッテリー市場が盛り上がりを見せている背景には何があるのか。特集『EV失速でどうなる?電池覇権』の#1では、国内バッテリーの主要陣営の勢力図を明らかにするとともに、補助金が投下されるバッテリー陣営を大胆に予測する。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)

EV需要停滞でバッテリーメーカーも失速
経済安保で電池産業育成が急務に

 世界的な電気自動車(EV)市場の盛り上がりとともに、EVに搭載するバッテリーの需要は飛躍的に増大した。その中心にいたのが日本・中国・韓国のアジア勢だ。

 経済産業省の資料によると、車載バッテリー市場は、2022年時点で約96%を日中韓3カ国のメーカーが占める。このうち、CATLやBYDなどの中国勢は、グローバルで6割以上のシェアを握る。しかも中国は、電池製造のみならず、電池の材料となる黒鉛など、サプライチェーンの上流も押さえている。電池産業は、常に地政学リスクを抱えているのだ。

 そのため、日米欧いずれの政府も、車載バッテリーの経済安全保障上の重要性を強く認識している。経産省も日本勢を全面的にバックアップする姿勢を見せており、援助を惜しまない。

 蓄電池業界への「経済安保法に基づく認定供給確保計画」では、電池業界に23年度は3000億円、24年度は5000億円(令和5年度補正予算と6年度当初予算の合計)を投じる大盤振る舞いだ。補助金申請は今年5月27日に締め切られ、7月以降に結果が発表されるとみられる。

 経済安全保障上の重要性が高い半導体に、23年度補正予算で2兆円近い補助金が投下されたことに比べるといささか見劣りするものの、政府も危機感を持って電池産業の育成を進めていることは間違いない。

 ところが、である。この電池強化の動きに水を差す動きが生じている。世界的なEV需要が失速気味なのだ。当然のことながら、バッテリー業界は自動車メーカーによるEV計画修正の影響をまともに受けてしまう。

 バッテリーメーカーがどれだけ努力して高性能な車載電池を作ったとしても、それを搭載したEVが売れなければ、“商売上がったり”になってしまう。バッテリーメーカーは、ビジネスパートナーである自動車メーカーの好不調に翻弄されてしまうという構造的なジレンマを抱えているのだ。

 では、EVの普及が遅々として進まない日本のバッテリー業界は、いったいどうなっているのか。取材を進めると、苦境に立たされる日本の自動車メーカーとバッテリーメーカーの試行錯誤が鮮明に浮かび上がってきた。補助金を追い風にしてライバルを抜き去るのはどの陣営だろうか。

 次ページでは、国内バッテリーの主要陣営の激変ぶりを明らかにするとともに、補助金5000億円の投下先を大胆に予測する。