電気自動車(EV)シフトを急ぐホンダが電池・半導体のサプライチェーン(原材料・部品の供給網)の強化に躍起になっている。韓国LGエナジーソリューションやGSユアサと電池新工場を建設したり、世界最大の半導体ファウンドリー、台湾積体電路製造(TSMC)との協業を決めたりするなど、サプライチェーンの“川上”を拡充する動きを加速させているのだ。特集『半導体を制する者がEVを制す』の#7では、モビリティの価値や造り方が激変する中、旧来のものづくり偏重志向からの脱却に試行錯誤するホンダの課題を追った。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
台湾半導体TSMC、電池GSユアサと協業
「川上偏重」投資を加速させる理由
かつてのホンダは他社との提携を嫌い、独立独歩の姿勢を貫いてきた。だが、2021年4月に三部敏宏社長が就任し電気自動車(EV)シフトの方針を掲げて以降、提携・協業戦略を加速させている。
特にホンダが注力しているのが、電池と半導体のサプライチェーン(原材料・部品の供給網)の“川上”領域を拡充することだ。
「電動化を進める上で最も重要になるのは、バッテリーの競争力だ」「半導体の安定調達はモビリティの電動化、デジタル化が進む中で必要性が増している」
4月26日、三部社長は電動化戦略の進捗に関する説明会でそう言い切り、EVに不可欠な電池と半導体の調達力を強化する方針を鮮明にした。
実際に近年、ホンダでは川上に関する協業案件が目白押しの状況だ。説明会でも、世界最大の半導体ファウンドリー(受託製造会社)、台湾積体電路製造(TSMC)と協業することを表明した。
半導体以上に前のめりになっているのが、電池の調達である。すでに米国市場では米ゼネラル・モーターズ(GM)と、中国市場では中国CATLと提携関係を締結していたのだが、今年に入ってから大型案件が相次いだ。
今年1月には、韓国LGエナジーソリューションとEV用電池を生産する合弁会社を設立。24年末までに米国オハイオ州で新工場を建設する予定で、投資額は44億ドル(約5900億円)に上る。
4月28日、今度は日本での新工場立ち上げのニュースが舞い込んできた。ジーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ)との合弁で滋賀県にEV用電池工場を建設することが決まった。投資額約4300億円(うち約1600億円は補助金)が投下されるという。
ホンダが、これほどまでに一気呵成に「電池と半導体」の投資を加速させたのはなぜなのか。また、サプライチェーンの川上領域を強化するために、ホンダはどのような企業とタッグを組んだのか。次ページでは、ホンダと提携・協業関係を結んだ「20社リスト」を公開する。
そして――。実はホンダ社内では、川上投資に代表される「EV戦略」に異論を唱える声が上がっている。次世代モビリティにおける「付加価値」や「設計・製造の手法」が様変わりする中で、旧来のものづくり偏重の考え方から脱却できていないのではないかというものだ。ホンダが進めるEV戦略の死角についても取り上げる。