2024年急成長の8テーマ 日本の最強技術79社 #5Photo:CHRISTOPH BURGSTEDT/SCIENCE PHOTO LIBRARY/gettyimages

2024年の株式市場で大きな注目を集めそうな新技術が三つある。EV(電気自動車)で活用が期待される新型バッテリー「全固体電池」、微細化の限界に直面する半導体のブレークスルー技術「チップレット」、がん細胞だけを狙って攻撃する新治療薬「ADC(抗体薬物複合体)」だ。いずれも実現には高い技術力が必要だが、これらの技術の実用化や基盤技術・部材で日本企業は世界トップレベルにある。特集『2024年急成長の8テーマ 日本の最強技術79社』(全6回)の♯5では、新技術トレンド、そして投資の観点から最注目の国内企業15社を厳選して紹介する。(経済ジャーナリスト 和島英樹)

実用化秒読みの「全固体電池」
トヨタが2027年にも搭載EVを投入

 トヨタ自動車は次世代電池の本命とされる「全固体電池」を搭載した電気自動車(EV)を、2027年にも実用化する方針を明らかにしている。

 トヨタは従来、全固体電池はハイブリッド車(HV)に先行搭載するとしてきたが、EVでの実用化を目指す。報道などによれば、全固体電池を搭載したEVは10分以下の充電で約1200キロメートルを走行でき、現在のEVの2.4倍と飛躍的に航続距離が伸びる。

 経済産業省は23年6月16日付でトヨタや豊田自動織機などに対して、電池開発などの総事業費約3300億円のうち、最大1178億円を補助すると発表している。一般的なEV車載電池向けのほか全固体電池など次世代車載用電池も含まれる。

 全固体電池に関する特許数で世界一のトヨタが本格的に動きだしたことや、経産省の電池開発促進策などを背景に、全固体電池の実用化に向けた動きが加速する可能性がある。

抗がん剤で存在感増す「ADC」
“50兆円”の巨大市場を掘り起こす

 抗がん剤として「ADC(抗体薬物複合体)」の存在感が増してきている。ADCとは抗体に薬物を結合させたバイオ医薬品の一種。抗体の選択性と強力な化学療法の細胞殺傷力を併せ持っている。

 抗体が狙った細胞や組織にピンポイントで薬を運ぶことができ、ほぼがん細胞だけを攻撃することができる。一般的な化学療法では、周辺の正常細胞にも影響を及ぼすことで副作用の出るリスクが大きい。ADCはがん細胞内でのみ、薬剤を「弾頭」のように放出するよう設計されている。結果として、全体の薬物投与量を抑えられるメリットもある。

 ADCの構成要素は、(1)抗体、(2)抗がん剤、(3)抗体と抗がん剤の“つなぎ”の役割をする「リンカー」からなる。抗体は特定の異物にある抗原(目印)に特異的に結合して、その異物を生体内から除去する分子のことだ。

 ADCが血液中を循環し、がん細胞に到達すると、まず抗体ががん細胞表面の特定のたんぱく質に狙いを定めて結合し、がん細胞にADCが取り込まれると抗体と薬物を結ぶリンカーが切断され、薬物ががん細胞を内側から攻撃する仕組みだ。

 ADCは日本が強みを有している手法だけに、今後のさらなる拡大が期待されている。抗がん剤の市場は報道や調査機関によると、23年の2180億ドル(約32兆7000億円)から27年には3770億ドル(約56兆5000億円)と約7割拡大するとみられている。

半導体製造の新手法「チップレット」
生成AIの進化を支える

 半導体の製造工程で、「チップレット」と呼ばれる後工程技術への注目度が高まっている。チップレットとはこれまで一つのチップに集積した大規模な回路を、複数の小さなチップに個片化(チップレット)し、チップレット間をつなぐ基板上に乗せ“ワンパッケージ化”する。

 個別のウエハーで作ったチップレットの中から良品を選別し、インターポーザ(中継部品)などの上に実装し相互接続することで、結果として大規模チップにするもの。ワンチップ化できそうな大規模チップでも、あえて複数のチップレットに分割して製造することで、歩留まりの改善を狙う仕組みだ。

 半導体は線幅を細くすることで性能を高めてきた。オランダの半導体露光装置メーカーであるASMLが、EUV(極端紫外線)露光装置を開発し、10ナノ(ナノは10億分の1)メートル未満の線幅の露光を可能にした。線幅が細くなるほど半導体の性能は向上する。

 近年、急速に進化した「生成AI(人工知能)」は、高速かつ大容量でデータを処理することが求められる。後工程のチップレット化がこれを支えることになる。

次ページでは、車載用全固体電池、がん治療新薬、チップレットの3分野で高い技術を持つ企業、計15社を厳選し、それぞれ強みとなる注目ポイントと共に、今期と来期の予想営業増益率を、銘柄表にまとめて一挙紹介する。

図表:「全固体電池」・がん治療薬「ADC」・半導体「チップレット」で2024年注目の15社