地域司令官といっても、基本的にはバロウのワンマン作戦であり、もしバロウが敵に捕まったり当局に逮捕されても、南アフリカ政府は基本的に関与を否定し、軍もCCBの存在すら否定する原則になっていたという。

 このCCBの諜報活動を行う目的で、バロウは南アフリカの貿易会社や防衛装備品を扱う会社の社員、すなわちビジネスマンを装って活動を行った。

 しかしバロウがCCBの地域司令官を務めている間に、かつてバロウが南アフリカ軍の特殊部隊向けに行っていた隠密工作活動に関する教育訓練再開の依頼があった。バロウは軍のために訓練を提供したかったが、軍の正規のメンバーとして特殊部隊の訓練にかかわってしまうと、万が一バロウが国外で捕まった場合、南アフリカ政府や軍がバロウの存在を「否定」することが出来なくなる恐れがあった。

 そのためにバロウは民間の会社を設立し、元軍人のビジネスマンとして軍事訓練業務を提供している体裁をとった。つまり、CCBの地域司令官として貿易や軍関連のビジネスに従事している自身のカバーストーリーと整合性が取れるように、軍事訓練を提供する会社を経営していることにしたのである。同時にここで得た収入をCCBの活動資金に充てることも可能になった。

 この目的のためにバロウが1989年に南アフリカに設立した会社がエグゼクティブ・アウトカムズ社(EO)だった。

特殊偵察、情報収集、秘密工作
軍などで培ったスキルを民間向けに

 その後バロウはCCB内の不祥事に巻き込まれてCCBを退職し、EOの活動に集中することになった。EOで初めに獲得した民間の仕事は、ダイヤモンドの大手デビアス社向けのセキュリティ・コンサルティングの業務だった。デビアス社の経営陣は違法なダイヤモンドの取引により毎年数百万ドル相当の損失を抱えており、ダイヤという高価で運びやすい「商品」の盗難に頭を悩ませていた。

 デビアス社からの依頼を受けたバロウは、ダイヤモンドの密輸取引を行うグループにスパイを潜入させ、そのネットワークの全体像を明らかにしたうえで警察と共に密輸グループを一網打尽にする計画を立案し、デビアス社のセキュリティ・チームや各国の警察と組んで計画を実施。EOは組織に潜入するデビアス社の社員に対する訓練を含め、長期に及ぶ密輸組織撲滅のための契約を請け負った。