銃を持って狙いを定める軍人写真はイメージです Photo:PIXTA

ロシアの「ワグネル」によって、民間軍事会社の存在が多くの人々に認知された。一方、民間軍事会社の歴史上、避けて通れないのがエグゼクティブ・アウトカムズ社である。伝説的とも呼ばれる同社の成り立ちとは。※本稿は、菅原出著『民間軍事会社 「戦争サービス業」の変遷と現在地』(平凡社新書)を一部抜粋・編集したものです。

エグゼクティブ・アウトカムズ社の誕生と
創設者イーベン・バロウの人生

 民間軍事会社の業務の中でもっとも論争の種になるのが、直接的な戦闘のサービスである。

 実際に敵対勢力との戦闘が行われる交戦地帯を「最前線」として、その交戦地帯に近い「前線」と、そこから物理的に遠く離れた「後方」という空間概念で民間軍事会社の業務を整理してみると、民間軍事会社の主な活動は「後方」でなされることが多い。

 例えば軍事基地や政府系施設の警備、そこに運び込まれる物資の輸送警護、そこで働く政府の要人たちの警護、武器や装備品のメンテナンス業務や現地の治安部隊や兵士たちの訓練といった業務も、基本的には「後方」地域で実施される。

「前線」における敵との戦闘は正規軍の任務であり、軍の中核業務である攻勢作戦を民間企業に委託するということは、先進国の軍隊の場合は基本的に考えられない。

 しかし、自国の正規軍が十分に機能していない途上国の弱小国家やいわゆる破綻国家の場合、敵との直接戦闘を含めて「前線」から「後方」まですべての戦域における業務を民間企業に委託してしまうことがある。こうした例はとりわけアフリカの内戦において見られ、実際に1975年から2002年にかけて起きたアンゴラ内戦や1991年から2002年にかけてのシエラレオネの内戦において、南アフリカのエグゼクティブ・アウトカムズ社(EO)が内戦に参入し、戦況に大きな影響を与えたことはよく知られている。

 EOは1989年に軍事専門技能を販売する民間のセキュリティ・グループとして、南アフリカで登記された。提供する具体的なサービスは、武装戦闘、戦闘戦略、特殊軍事訓練、飛行監視・偵察、装備強化、射撃訓練等の戦争に関する技術や医療支援、ロジスティックス支援等のハイリスク地域での各種の支援業務である。

 EOの創設者は南アフリカの旧アパルトヘイト体制下で南ア国防軍第32大隊の副司令官を務めたイーベン・バロウである。バロウはその後、軍の特殊部隊のための情報機関である市民協力局(CCB)の英国、欧州、中東地域を管轄する「リージョン5」の司令官を務めた。このCCBの地域司令官は通常の軍の階級では大佐と同等とされた。

 CCBの地域司令官としてバロウは、該当地域における敵の組織にスパイを浸透させ、特殊作戦に必要な情報収集に当たるだけでなく、軍の特殊部隊が何らかの理由で遂行出来ない場合に、特殊工作活動を通じて脅威を排除する任務も付与されていたという。