伝統の重厚感に軽快さを付け加え
質の高い乗り心地を実現

 この、ある種の“落ち着き”はハンドリング面にも現れていた。スタビリティはあくまで高く、どれほど乱暴な運転をしてもリアが滑り出すことはなかった。むしろ、こうした安全性の高いハンドリングを生み出すために、安定感溢れるセッティングにしていたといってもいいくらいだ。

 新型も、優しい手触りや安定感が引き続き感じられるのは従来モデルと共通。だがそれだけではない。

 乗り心地に軽く弾むような感触が認められるようになったほか、ハンドリングも安定一辺倒から俊敏さと機敏さを取り込んだ方向に軌道修正された。

 こうした、軽快感溢れる乗り心地やハンドリングは、ヨーロッパ製ポピュラーカーで最近よく見られる傾向だ。それ自体に違和感は抱かない。ただし、“ドッシリ感”の権化のような存在のVWまでもがこのテイストを採り入れたことに、軽い疑問を抱いていた。

 しかも、まずこのキャラクターに変化したゴルフ8やI.D.4は、軽快な足回りの方向性を完全には消化し切れていなかった。サスペンションの動きに洗練されていない部分がありボディなどに微振動が残る傾向が認められたのである。乗り心地の質感という点で、VWというブランドに似つかわしくないように私には思えた。

 ところが、ティグアンはこの部分で大きな進化を遂げていた。伝統の重厚感に軽快さを付け加えながらも、サスペンションストロークの全域でしっかりダンピングが効いている。そのうえボディに微振動は残らず、質の高い乗り心地を実現していた。

 これには、電子制御サスペンションのDCCがDCCプロに進化し、減衰力を伸び側と縮み側で個別に制御できる新しいダンパーを採用したことも関係しているはずだ。

 ちなみに1.5eTSIは回転がスムーズな一方で、低回転域ではやや線が細い印象を抱いた。この弱点はマイルドハイブリッドシステムが巧みにサポートし、扱いやすいエンジンに仕上がっていた。

 今回は2.0TDIを積むRラインにも試乗した。基本的な印象は1.5eTSIに近い。ただし、TDIのほうが低回転域でより力強く、そしてRラインの足回りは一段とスポーティな走りを実現している。

 電動化を強力に進めるフォルクスワーゲンには“もうエンジン車を積極的に開発する意思がないのか?”という不安を抱いていた。新型ティグアンに乗ってこれが杞憂であることが明らかになった。I.D.シリーズを含め、今後登場するVWの新型車には期待していい。