税務調査官にしてみると、弁護士はものごとを常に「勝ち・負け」という判断基準で捉えるものだと考えているようです。要するに、税務調査の場も「喧嘩をする場」だと考えていると思われているようなのです。

 しかし、私は税務調査を「喧嘩の場」だと考えたことはありません。もしも「勝ち・負け」という判断基準で考えようとしたならば、彼らは必ず「国家権力」を持ち出してくることでしょう。そうなれば、その先に待ち受けているものは消耗戦に他なりません。

必ずしも「お上の言う通り」
に従う必要はない

 私たちが狙うべき答えはそこにはありません。税務調査官ときちんとしたコミュニケーションを取り「議論の場」とすることが何よりも重要です。あくまで私たちに必要なことは「税務調査に協力したいのだ」という姿勢です。

 求められた要件に対し、法的根拠を軸に「ここまではやります」「これ以上はできません」という姿勢をはっきりと示すことです。

「税務調査が入る」とわかると、多くの人は「お上が来る」「怖い人たちが来る」ということですべて従わなければならない、と誤解してしまいます。

「従わなければならないこと」は、議論だけではありません。ときには税務署の職員が、訪問調査ではなく「税務署に来るように」と通達してくることがあります。これにしても必ずしも従う必要はありません。

 遠方の税務署の職員がやはり「税務署に来るように」と言ってきたことがありました。

 話を聞いてみると、「来るように」と伝えるとその通りにする納税者が多いため、こうしたことが習慣となっているようでした。しかし、税務署に行くことは義務でもなんでもありません。私などは日々、いろいろな業務に追われていますので、遠くまで出かけていく時間はなかなか取れません。また、行き帰りの所要時間を考えれば議論の時間はそれほど長く取れませんので、必然的に何度も通わなければならないことになります。そうなれば、結果として、税務調査の時間は長期にわたることとなります。