残されたパートナーと銀行が、四苦八苦したことは言うまでもない。

 ミスターTはその後、ぷっつりと消息を絶っていた。元パートナーも、とっくの昔に姿を消していた。

 ところが数年後のある日、ミスターTが突然、日本のテレビコマーシャルに登場した。白衣を着て、いかにもドクター然としている。六本木交差点付近にオープンした、〈ドクターTによる、ダイエットと禁煙のための健康クリニック〉のコマーシャルだ。

 クリニックを訪れると、男女の日本人看護師が、大真面目な顔で接客している。パンフレットによれば、患者に禁煙とダイエットを同時に実現させるために、“特別な訓練を受けた”スタッフばかり。診察室はパーティションでいくつかに区切られ、どのスペースにも、体重計などの計測器や、さも重要そうな装置が備えられている。

 奥には、受付で入念なチェックを受け、特別な許可を得た者だけが通される、ドクターTのオフィスがある。鍵のかかったドアを開けると、窓のない部屋に、ドクターTが座っている。たいていは、タバコの煙がもうもうとたちこめる中で。

 日本市場への進出に先駆けて、この“優秀なドクター”は、テキサス州の“研究所”で、特別コースを受講し、6カ月かけて修了したという。修了証書は、クリニックのロビーの壁に鎮座ましましている。でかでかと書かれたその証書には、〈ダイエットと禁煙を同時に指導するための免許皆伝〉とある。

 ドクターTはテキサスの研究所を修了するとまもなく、『ジャパン・タイムズ』に広告を出した。すると運がいいことに、2人の日本人と1人のチェコスロヴァキア人が、六本木クリニック開設のための資金提供を申し出たという。

会社の資金をすべて騙し取り
またも姿を消した「ドクターT」

 2、3回話しただけで、出資者たちは、太平洋を渡る彼の飛行機代(しかもファーストクラス)を提供。そればかりか東京に、おしゃれなバカ高い西洋風のアパートを用意した。サラリーもかなり奮発し、前払いとして、すでに大金を渡している。新居に家具調度をそろえる費用として、300万円貸してもいた。

 なにより、このヴェンチャーに彼が出資するのを、許したのが失敗だった。