需要に応えて、外国人季節労働者が増えれば増えるほど、この種の学校が次々に誕生し、“学生たち”にヴィザと住まいを提供していた。

 最上階のオフィスで、〈ジョルジオ アルマーニ〉のダブルスーツに身を包み、きらきら光る金のネックレスをもてあそびながら、悠然と椅子に座っているのは、誰あろうミスターTその人だった。

 ただし、今回の肩書は、「プロフェッサーT」。

 というより、正式な身分は「T校長」。ドアの表札にも、デスクの札にも、そう書いてある。

ついに逮捕されて府中刑務所へ
「T校長」は「囚人T」へと転落

 ミスターTは今や60代。髪も真っ白だし、持病のパーキンソン病のせいで、手が震えている。『ジャパン・タイムズ』の広告に応募し、巧みな話術を利用して、今度は日本の新しい語学学校の、校長の座を射止めたらしい。

 英語力はかろうじてハイスクール程度。テキサス訛りがきついから、たいていの日本人は、彼の発音をろくに聞き取れない。「今何時ですか?」を彼はこう発音する。

「ワタマッセ?」

 そんなことはどうでもいいらしい。秘書たちは、「校長先生」にペコペコとお辞儀をし、いそいそと立ち働いて、まるで彼をハーヴァード大学の名誉教授のように扱っている。刑務所にふさわしい詐欺師だとは思いもよらずに。最終的には、そこが彼の居場所になったのだが。

天才詐欺師「ミスターT」が手を染めた、日米関係史上もっともカラフルな犯罪とは?『新東京アウトサイダーズ』(角川新書) ロバート・ホワイティング 著、松井みどり 訳

 数カ月勤めた後、T校長は逮捕された。パキスタン人を、自分の学校に通わせるために、日本に招き、労働力を必要としている工場に、かなりの手数料をとって送り込んだからだ。

 言うまでもなく、学生ヴィザで働くことは違法である。学生たちに仕事を斡旋したT校長は、法律に違反したことになる。もちろん、学生を雇った工場主も、仕事を請け負った学生たちも、同罪だ。

 T校長は、脱税を含むいくつかの罪で起訴された。裁判がおこなわれ、結果、「T校長」は府中刑務所で「囚人T」と改名せざるを得なかった。1年の刑期を終えて、ミスターTは釈放され、国外追放されている。

 これにより、日米関係史上もっともカラフルな犯罪に、終止符が打たれた。