おかげでドクターTは、正真正銘の共同経営者となり、堂々と会社の資料や銀行口座に、アクセスできたことになる。しかも、アメリカにあるという彼の資金を、日本に“移す手続き”をするまで、出資者たちは彼の出資分を、全額肩代わりしていた。

 彼らをそこまで寛大にさせたのは、まったく知らない人間を言葉巧みにあざむく、ドクターTの話術と、彼らの愚かさのせいだろう。アメリカ人気質のストレートな魅力をフルに発揮して、日本人を説得するのに、大した手間はかからなかった。出資者たちは、アメリカにおける画期的な発見で、大儲けできるに違いない、と思い込んだ。

 驚いたことに、共に仕事をした数カ月間で、ドクターTはついに一度も身銭を切っていない。金が工面でき次第すぐに払う、という約束で。

「アメリカの株や証券やクレジットカードばかりだから、すぐに現金化はできない。少しだけ待ってほしい」

 彼はそう言った。そしてある日、仕事が始まってまもなく、ミスターTは消えた。会社の資金をすべて持って。一巻の終わりだった。

代々木の英語学校の校長として
「プロフェッサーT」あらわる

 ドクターTをまったく疑わなかったパートナーたちは、多くの日本人ビジネスマンの例に漏れない。彼らは何年もの間、アメリカ人を特別視してきた。“疑わしきは罰せず”という原則をあてはめてきた。なぜなら、アメリカはスーパーパワーであり、日本は、急成長しているとはいえ、まだまだ後れを取っている。政府高官も自国を、「アメリカの弟分」ととらえていた。

 ドクターTは、その後数年かかったが、ある日、信じられない場所に再び出現した。代々木にオープンした新しい英語学校、〈イースト・ウェスト〉だ。学校の評判は上々で、パキスタン、バングラデシュ、中国、フィリピンなど、おもにアジア系外国人に、英語や日本語を教えている。パンフレットによると、複数のフロアを使ったこの学校には、およそ4000人の学生が通っているという。

 ときまさにバブル期で、合法、非合法を問わず、外国人労働者がどっと日本に押し寄せ始めていた。日本人はますますリッチになり、若者たちが“きつい、汚い、危険な”作業を嫌うようになっていたからだ。