「所有」「運転」「移動や使用」の楽しみのうち
EX30は流行と逆張り!我が道を行く

 もうひとつの印象的な特徴は、スペック的には高性能志向であるが、クルマとしてのテイストは非常にマイルドであったことだ。クルマの付加価値は大きく分けて「所有する楽しみ」「運転する楽しみ」「移動や使用の楽しみ」の3つがある。今日、高付加価値モデルを見ると1番目と2番目に力点を置いたものが主流だ。EX30はその逆張りで、3番目を重視しているように感じられた。

 加速感やステアリング操作の応答性などの刺激が運転を楽しいものにする要素であることは間違いない。が、ボルボはむしろ積極的に排除し、語弊を恐れずに言えば「クルマの存在感を消し去ろうとしているようなチューニング」を徹底させている。

では、走りの性能が悪いのかというとそんなことは全くない。先に述べたように加速力は上位クラスを食うくらいの素晴らしさ。幅245mmというこのクラスとしては相当立派なタイヤが装着され、サスペンションもそれを履きこなすようしっかり仕事をしている。それらの性能が主役ではなく黒子に徹しているだけだ。

 それが端的に表れたシーンのひとつが内陸の山形市と日本海沿いの鶴岡を結ぶ国道120号線月山道路である。山形自動車道は綺麗に整備されているが、並行する一般国道は除雪車の通行で路盤が傷みやすい雪国の道路らしく、改良が追い付かず舗装がボコボコな箇所が至る所にある。

 そんな道をペースを上げ気味に走ると、EX30の特質が浮き彫りになる。路面のうねりやひび割れ、補修跡を拾っても車体やステアリングを介して伝わってくる振動は極小。車体の左右方向の揺れも非常に小さく、まるで普通の道路を走っているかのようだ。一方でグイグイとパワードライブを楽しみたくなるようなテイストはない。クルマのリソースをドライビングプレジャーではなくドライバーの不安、緊張感を取り除くのに全振りしたという印象である。

出羽山地、月山湖にて出羽山地、月山湖にて。悪い道でも快適性、走行安定性はハイレベルに保たれた Photo by K.I.