共通ポイント20年戦争Photo:JIJI

楽天(現楽天グループ)は2015年、ローソンとのポイント事業を柱とする包括提携の交渉を進めていた。ライバルであるPontaの主力加盟店であるローソンも前向きで議論は煮詰まっていた。だが、提携交渉は合意寸前で打ち切りとなった。前回に続き楽天とローソンの幻の提携の舞台裏をひもとく。長期連載『共通ポイント20年戦争』の#37では、大型ディールを破談に追い込むことになった三菱商事やNTTドコモなどの暗躍の実態を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)

三菱商事が「JALは楽天が嫌だろう」
リクルート「できればやっていただきたくない」

 2015年に浮上した楽天(現楽天グループ)とローソンの包括提携に向けた交渉は順調に進んでいた。だが、懸念はあった。それが、ステークホルダーの意向である。

 ステークホルダーとは、ローソンの株式の約33%を保有する筆頭株主の三菱商事だけではない。Pontaを運営するロイヤリティ マーケティング(LM)の株主であるリクルートホールディングスと日本航空(JAL)の理解も得る必要があった。ローソン幹部は楽天との提携はあくまでローソンの専権事項だと認識していたが、楽天ポイントの総責任者でローソン側と交渉に当たっていた笠原和彦は特に三菱商事の出方について気にかけていた。

 そして、笠原の不安が的中する。16年1月7日、笠原に対し、交渉のカウンターパートであるローソン専務執行役員の加茂正治がこう伝える。「三菱商事が『JALは楽天が嫌だろう』と気にしていた」。笠原にとって、三菱商事側の発言は、JALをおもんばかったものか、三菱商事が遠回しに難色を示したものか判断がつかなかった。いずれにしろ不穏な空気が漂っていた。

 当時、三菱商事はリテール分野で拡大路線をとっていた。一例が全国のスーパーへの社員の出向だ。人のつながりを契機に資本・業務提携などを模索する狙いがあった。まさに三菱の経済圏を築く動きである。その路線を主導していたのが、16年4月に社長就任を控えていた常務執行役員生活産業グループCEOの垣内威彦である。三菱商事にとってローソンとPontaは経済圏の中核に据えるべき存在でもある。楽天に入り込まれることへの警戒感があってもおかしくなかった。

 とはいえ、当のローソンは楽天との提携を前進させていた。1月29日、笠原と面会した加茂はこう伝えた。「楽天との取り組みを進めることでローソンの役員は合意した」。スケジュールについて、加茂は3月1日の経営会議で了承を得ると伝えた。加茂がその日程を挙げた背景にあったのが、メディアの動きである。

 両社が包括提携の交渉を進めていることは15年夏に『日経ビジネス/ITpro(現日経クロステック)』がいち早く報じていた。交渉入りしたばかりの早いタイミングでの正確な報道に、関係者の中には提携に後ろ向きの勢力によるリークだと疑うものもいたほどだ。その後、提携の中身が煮詰まってきたことを受け、メディアの動きが活発になる可能性があった。ローソン側は再び情報が漏れる前に機関決定をしたかったのだ。

 やりとりの中では、ローソン側から三菱商事に関してこんな発言も漏れた。「小林さんのうちに決めたい」。小林とは三菱商事の社長だった小林健である。三菱商事はその前月に、4月1日付で小林から垣内に交代するトップ人事を発表していた。ローソンの関係者は三菱商事の体制変更を気にかけていたのだ。

 楽天にとってローソンとの提携は重要性が増していた。同じころ、ファミリーマートとサークルKサンクスを傘下に持つユニーグループ・ホールディングスが経営統合の協議を進める中で、楽天ポイントはサークルKサンクスを加盟店から失う恐れがあったためだ。

 実際、楽天のファミマ残留交渉は難航していた。16年1月下旬の楽天会長兼社長の三木谷浩史とファミマ会長の上田準二によるトップ会談は不調に終わった。経済圏からコンビニが消える最悪のシナリオが現実味を帯びていた。ローソンとの提携交渉では、楽天はシステム投資やポイントカードの作成を見切り発車で進めていた。

 2月23日、笠原と加茂はローソンでの楽天ポイントの取り扱い開始を当初予定の2カ月後ずれした9月1日にすることで合意する。ローソンではその3日前に、社長の玉塚元一を筆頭に役員8人が楽天との提携に合意していた。

 スケジュールが固まる一方で、目まぐるしく変わったのがステークホルダーの意向だ。2月12日、三菱商事とリクルートが会談を持った。ローソンに楽天ポイントを導入したいと申し入れた三菱商事にリクルートはこう応じたという。「できればやっていただきたくない」。

 JALも2月末に了解したはずが、3月に入り、再び抵抗感をにじませていた。「ローソンの企業価値向上の取り組みとして理解している」。三菱商事もローソンにそう伝えた矢先、JALを気にかけてか態度を硬化させた。JALやリクルートに対してはローソントップの玉塚が直接説得に当たっていた。

 そんな時に、提携の行方を左右しかねない重大な出来事が起きる。