「退職代行サービスを利用する若者が相次いでいる」。記事やTV番組で、マスメディアはそうした若者像を描きがちだ。だが退職代行業者に取材してみると、実は中高年社員からも「仕事を辞めたい」という依頼が届いていることが分かる。その理由も「根気のなさ」「常識のなさ」に起因するものばかりではない。あまり世に出ていない退職代行利用者の実態と、社員に「退職代行を使ってでも辞めたい」と決意させる日本企業の問題点を読み解いていく。(人事ジャーナリスト 溝上憲文)
退職代行の利用者は若手だけじゃない!
中高年社員が駆け込む例も
本人に代わり、勤務先に退職の意向を伝える「退職代行サービス」が一般企業でも認知されつつある。「退職代行業者から、退職手続きの要請を受けた」と答えた大企業が18.4%に上ったとの調査結果もある(東京商工リサーチ調べ)。
とある不動産会社の人事担当者は「2年前に初めて退職代行業者から電話を受けたときは驚いたが、数年前には考えられなかったことが今は日常になりつつある」と冷静に受け止めている。その一方で、「こんなサービスがビジネスとして成り立つなんて世も末だ」と嘆く声も根強い。
また、退職代行サービスの利用者に批判的・懐疑的な人も少なくない。多いのは「職業選択の自由は憲法で保障されている。会社を辞めたければ、自分の意思でいつでも辞められるのに」という意見だ。確かに常識ではそうなのだが、退職代行業者に駆け込む人にはそれなりの事情が存在する。本稿では退職代行業者への取材を通して、その実態を解き明かしていく。
まずは利用者の年代である。退職代行業者の客層は、一般的には新卒入社したばかりの新人や20代の若手社員が多いと考えられているようだ。それも一理あるが、実は利用者の年齢層は幅広い。
「退職代行jobs」を運営するアレスの調査によると、利用者の年代は20代が65%を占めているが、30代が21%、40代が7%、50代も3%と、必ずしも若年層だけとは限らない。ちなみに男女比は男性66%、女性34%だという。
また、「退職代行ガーティアン」を運営する東京労働経済組合の調査によると、同サービスでは20~24歳が利用者全体の23%を占めたのに対し、25~29歳は33%だった。必ずしも「新卒入社の新人ばかり」ではないのだ。
さらに、「退職代行モームリ」を運営するアルバトロスによれば、同サービスは他社と傾向が異なる。20~30代の利用者が6割にとどまる一方、40代以上が4割弱を占め、最高齢は71歳だったという。
71歳といえば、当然ながら世間の常識を十分にわきまえている年齢だ。この依頼者も職場で頼られていたというが、一体何があったのか――。