確かに、国立公園内にホテル・旅館が溢れているがそれは世界の観光ビジネスの常識から見れば「安宿」がほとんどで、高級ホテルが圧倒的に足りていないのだ。

 先ほどの環境省の資料によれば、国立公園内の宿泊施設のうち75.1%が5000円〜1万5000円だった。「高級ホテル」の基準である5万円以上はなんと1.5%に過ぎない。

 つまり、歯に衣着せぬ言い方をすれば、日本の国立公園は「安宿」が溢れる「安い観光地」だったのである。

「それの何が悪い!すべての人が利用できるのが国立公園だろ」というお叱りが飛んできそうだが、はっきり言わせていただくと「悪い」。国立公園内の環境破壊につながるからだ。

国立公園の自然を
破壊してきた「安宿」

 実は国立公園が今、頭を痛めているものは「廃屋」である。自然豊かな国立公園になぜそんなものがたくさんあるのかと首を傾げる人もいるだろうが、この多くはかつてこの地にあふれた「安宿」の残骸なのだ。

《1980年代から1990年代前半にかけて団体旅行に対応するための施設の新設・改修を行なってきたが、バブル後団体旅行が減少して個人旅行が主流になってきており、投資回収や設備更新等の課題から、経営破綻をする宿泊施設が後を絶たない。(中略)上記の経緯から宿舎事業の廃屋化が国立公園内の利用拠点の大きな課題となる》(宿舎事業を中心とした国立公園利用拠点の面的魅力向上に関する現状と課題 P13)

 これは今、日本が直面している「安いニッポン」問題にも共通する。なぜ日本の外食、小売、宿泊などサービス業が、他の先進国と比べて異常なほど安いのかというと、「先進国の中でアメリカに次いで人口が多かった」ということに尽きる。