【マンガ】「投資するなら5銘柄まで!」そりゃそうだと思える納得の理由『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第108回は「分散投資」と「集中投資」それぞれの留意点を掘り下げる。

伝説的ファンドマネジャーの「5銘柄上限論」

 主人公・財前孝史は6銘柄に投資している同級生・松井の手法を「それは分散投資だ」と指摘する。専業投資家でもなければ、「片手で済む」5銘柄までが日常生活に悪影響を及ぼさずに投資できる上限だという持論を展開する。

 新NISA時代の「王道」とみなされている分散投資は、実は一部で評判が悪い。作中にも「分散投資は富を守り、集中投資は富を築く」という格言が出てくる。もうお金持ちなら分散投資でいいけれど、これからお金持ちになりたければ集中投資せよ、とも読める。

 極め付きはウォーレン・バフェットの「分散投資とは無知に対するリスクヘッジである」という有名な言葉だろう。目利きなら、無駄なものまで買う必要はない。バフェット氏からすれば、全世界の数千銘柄に分散する「オルカン」は愚の骨頂かもしれない。

 一般に20銘柄程度でかなり分散投資効果が出る。裏返せば、一桁からせいぜい十数銘柄強でなければ集中投資とは呼べないだろう。日本の上場企業はおよそ4000社。そこから数社を選ぶのは、相当の決意と自信が必要だ。だからこそ、集中投資には「攻め」の姿勢を養い、マーケットや経済・ビジネスへの感度を高める効果が期待できる。

 投資後のメンテナンスのことを考えると、財前や伝説的なファンドマネジャー、ピーター・リンチ氏の提唱する「5銘柄上限論」は私にはしっくりくる。ネットで情報が取りやすくなったとはいえ、企業をしっかり追いかけるのはかなり骨が折れるからだ。

記者であってもチェックはキツイ

漫画インベスターZ 13巻P29『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 28年の記者歴のうち、個別企業の決算や財務を分析して記事にする担当を通算5年ほど担当した。1人の記者が担当する企業数はざっと60社程度。主要企業10社ほどはニュースバリューが高いのでしっかりフォローしなければいけない。それ以外にも数社は、経営難など要ウオッチの会社を抱えるのが常だった。

 フルタイムの記者稼業でも、十数社の状況を常にアップデートするのは大変な作業だった。日々のニュースをチェックし、四半期ごとの決算書やIR資料はもちろんのこと、年に1度は有価証券報告書にも隅から隅まで目を通す。特に危ない会社は子会社・関連会社の登記簿をとることもある。

 担当は同業界に固まっているのでライバル企業のチェックは同時並行でできたが、バラバラの業種に投資すれば「横比較」も欠かせない。本業を別に持つ個人投資家なら、せいぜい5社が丁寧に追える上限だろう。

 5銘柄程度に絞るなら、そこに運用資金の大半を集中するのはあまりにリスキーだ。このコラムでも以前に紹介した「コア」と「サテライト」の組み合わせが無難だろう。

 配分バランスは人それぞれだろうが、コアは指数連動型運用で固め、サテライトとして個別銘柄に投資する。コアの部分は株式以外、海外債券やREIT(不動産投資信託)などにも幅広く分散した方が「守り」としての機能は高まる。

 そもそも集中投資のようなアクティブ運用がいいのか、指数連動型が有利なのか、という長年の論争に興味のある方は、私のYouTubeチャンネルの「徹底討論!アクティブvsパッシブ」という動画をご参照いただきたい。

 なかのアセットマネジメントの中野晴啓氏と東京海上アセットマネジメントの平山賢一氏がアクティブ派、私がパッシブ派を担当して、ディベート方式で是非を議論している。

漫画インベスターZ 13巻P30『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 13巻P31『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク