保険ラボ

楽天保険グループの社長である橋谷有造氏が8月26日付けで退任する。形式上は円満退社だが、無理筋の生損保一体型の新基幹プロジェクトを強引に推し進めてきたことや、楽天損害保険での見せ掛けの利益計上などの責任を取らされることとなった。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)

楽天保険グループの橋谷有造社長が
8月26日付けで事実上の引責辞任

 8月22日、楽天生命保険や楽天損害保険などを擁する楽天保険グループでどよめきが起こった。楽天インシュアランスホールディングス(IHD)の橋谷有造社長から突然、8月26日に退任することを知らせる連絡が送られてきたからだ。

 この度、私は8月26日をもちまして楽天インシュアランスホールディングス代表取締社長、楽天生命取締役会長、楽天インシュアランスプランニング取締役会長そして楽天損保取締役副会長のすべての職務から退任することとしました。

 2016年1月に楽天生命に入社し、その後 損保とペットが合流し長きに渡り楽天保険グループをリードさせていただきありがとうございました。今後の楽天保険グループの繁栄を皆さんの力で築いてください。本当にありがとうございました。

 続けて、楽天IHDの後任社長には、現在、楽天グループの副社長を務める高澤廣志氏が就くと明らかにしている。

 もっとも、この通知には当初から無理筋だった新基幹プロジェクトを巡る混乱に加え、橋谷氏と昵懇の仲で実績に乏しいシステムベンダーとの不透明な関係性、悪化し続けている楽天損保の財務内容を覆い隠すために行った見せ掛けの利益計上などについては、一切触れられていない。

 しかも、4月には金融庁から保険業法に基づく報告徴求命令を受け、生損保一体型の新基幹システムをつくれば10年後には売り上げが10倍超になるという計画を策定した根拠について、何度も厳しく問い詰められている。

 これらの詳細については、「楽天保険グループ新基幹システムの迷走、金融庁による報告徴求命令に発展!【楽天保険の泥沼(上)】」「楽天損保の危うい運用、見せかけの利益計上のからくりを大暴露【楽天保険の泥沼(下)】」で詳述した通りだ。

楽天楽天保険グループ各社の本社が集まる「楽天クリムゾンハウス青山」 Photo by Akio Fujita

 こうした状況にもかかわらず、橋谷氏は「退任は一身上の都合だ。親の介護もあるため当面仕事はしない」と周囲に語っており、円満退社であると強調しているもようだ。

 実際、形式上は通常の退社に見えるが、「通常ならば顧問などの役職で残るところ完全に楽天から身を引くことになるため、事実上の引責辞任だ」と複数の楽天関係者は言う。とはいえ、橋谷氏に対しては「このままうやむやにするつもりか」「円満退社をうたうとは、この期におよんで見苦しい」などの怒りの声が、楽天保険グループ各社だけでなく楽天本体でも上がっている。

 つまり、楽天本体は今回の件について「臭いものに蓋(ふた)」をしたわけだ。もっとも、橋谷氏を放逐したところで楽天保険グループに残された“負の遺産”がなくなるわけではない。