8月30日、大手損害保険会社4社が契約者の個人情報の漏えいについて金融庁に報告書を提出した。漏えいした件数は実に約250万件と膨大なだけでなく、出向者の在り方についても問われる事態となり、損害保険協会は出向に関するガイドラインの制定に動いている。現時点ではドラフト段階だが、その中身を早見せする。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)
大手損保4社で判明した
情報漏えい件数は約250万件
Q 8月30日に、東京海上日動火災保険と損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の大手損保4社が、保険契約者の個人情報の漏えいの調査結果を公表しましたね。
A 7月23日に金融庁から情報漏えいに関する報告徴求命令を受けていますので、その報告を行いました。情報漏えいした件数は、4社合計で実に約250万件に上ります。
Q 膨大な数で驚きました。
A 下図の通り、約9割が乗り合い代理店である自動車ディーラーでの情報漏えいであり、残り約1割が乗り合い代理店に出向していた損保社員による情報漏えいです。
Q 前者は、乗り合い代理店の本社管理部門から各拠点に契約者情報を送信する際、宛先に複数の損保会社の担当者が含まれていた事案ですね。
A 自動車ディーラーチャネルにおける「テリトリー制」に起因したものです。ディーラーの拠点ごとに販売する自動車保険の保険会社を指定するため、他社の契約情報をまとめて送付するといったことが日常的に行われていました。
Q ディーラーによっては、損保別に契約者を管理していなかったとか。
A 保険募集に関する事務を損保会社に丸投げしているディーラーが少なくありません。損保会社が契約などの事務の一部を引き受ける「二重構造」と呼ばれる長年の慣行が、問題の温床になっています。
Q ディーラーにとって都合がいいですもんね。
A 一元管理することで契約の更改漏れを防いだり、書類の不備を一括で管理したりするなどの効果があるのは確かですが、他社の契約情報ですからね。かなり問題のある行為といえます。
Q そのことを指摘したのが、他部署から異動してきた東京海上の社員だったとか。
A その通りです。長らくディーラーを担当していると当たり前になっていたのでしょうが、他部署からすると驚く事態だったというわけです。もっとも、調査の過程で「問題ではないかと思っていたが、誰かが法的な整理をしているのだろう」と言っていたディーラーの担当者もいたようですね。うすうすよくないと気が付いていたけど、あまりに公然とやっていたために、感覚がまひしてしまっていたのでしょう。
Q なるほど。世の中の常識が通用しなくなっていたのですね。もっとも、人事異動が活発なら防げたような気もしますが。
A ディーラーチャネルは異動が少ないのが特徴です。「ディーラー幹部との人的関係が複雑なため、人事部門もおいそれと異動させられないと嘆いていた」と、ある損保幹部が言っていました。
損保会社がディーラーに便宜を図ることで拠点を多く割り当ててもらえれば、トップラインが増えます。ディーラー担当の営業社員は事務作業だけでなく、ディーラー幹部にいかにして食い込むかも重要な仕事になっているため、このチャネルは伏魔殿と化していたといえそうです。
Q 次に後者ですが、こちらは損保会社からの出向者が情報を漏えいしていましたね。
A 出向者による情報漏えいは、より根深い問題です。代理店内におけるシェアの確認や重点的に支援する拠点や募集人を特定するというのが、当初の話でした。ですが、出向元である損保会社の指示で他社契約の切り替えや、情報を取ってくることが出向者の評価につながるなど、組織的な関与があったと報告書に記載されています。
Q こうした問題を受けて、損害保険協会が出向に関するガイドラインの制定を進めているようですね。9月半ばに公表されると思いますが、どのような内容になりそうでしょうか。
A では、現時点ではドラフト段階ですが、出向に関するガイドラインを見てみましょう。