せっかく合格した東大を
「入学辞退」した10浪生の事情

 一方で、医学部に限らずとも、10年以上の浪人経験者がいるのも事実です。

 どちらかと言うと、彼・彼女らは「マイペース」よりも「職人気質」の傾向が強い人たちです。両親が大卒ではなかったり、自身が進学校を出ていなかったりする場合もありますが、それでも受験を通して自分を鍛え、その先の人生に繋げようとしている印象です。

 時には社会人として仕事をしながら、ひたむきに毎日鍛錬を続ける姿は「受験アスリート」と言ってもいいでしょう。

 たとえば私の知人に、10浪して東京大学理科1類に合格した方がいます。その方は母子家庭で育ち、公立小学校に通っていたのですが、当時は勉強ができなくていじめられたそうです。

 そこでハングリー精神を持って勉強した結果、人並みにできるようになったものの、進学先の公立中学校で「現実に絶望した」といいます。自分よりも賢いのにスポーツ万能な同級生と出会い、才能の差を痛感したからです。

「勉強だけでも結果を出さないと、小学生のときのようにいじめられてしまう」。そう思った彼は、人の何倍も時間を使って勉強し続けました。具体的には、高校を経て他大学に一度入り、卒業・就職してからも、東大を目指してずっと受験勉強を続けたのです。その結果、ついに10浪を経て東大に合格しました。 

 ところが彼は、東大への入学を辞退しました。

 その大きな理由としては、すでに社会人になっていたことが挙げられます。でも、それだけではありません。彼にとって東大受験は「自分への挑戦」でした。それを成功させることによって、単なる学歴コンプレックスではなく、もっと根深い過去のコンプレックスを払拭できたからです。

 東大に入らずとも、受験で得た成功体験が、彼に自信をもたらし、人生を明るいものにしてくれたといいます。