妻の誕生日プレゼントを買いたいが、使えるクレジットカードは妻名義…「専業主夫」の夫がとった行動とは?写真はイメージです Photo:PIXTA

妻の海外赴任に同行して「駐夫」を経験した著者が、自身と同じく「プライドを捨てられないまま妻との立場が逆転した」男性を調査した。強力に立ちはだかる「男は稼いでナンボ」という男性性の壁。これを築いたのは“マッチョ幻想”に囚われていた自分自身にほかならない。稼得能力の喪失で追い詰められた夫は、そこで劣等意識とどう向き合うのか?本稿は、小西一禎『妻に稼がれる夫のジレンマ――共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。

日本社会に根深く残る
「男は稼いでナンボ」

 強力に立ちはだかる男性性の壁を乗り越え、脱却するために、男性たちは何と戦っていくべきなのだろうか。稼ぐ力を持って当然という男性としての意識を打破し、新たな自分に到達した男性たちの例から考えてみたい。

「男は稼いでナンボ」

 こうした価値観が、日本社会には根深く残っている。男の力の源泉は経済力であって、稼得能力の高さこそ、男の象徴だという見方だ。

 1986年に放送され話題を呼んだテレビCMで、女性俳優が発した言葉を覚えている人も多いだろう。

「亭主元気で留守がいい」

 夫は外で元気で稼いでほしい、私(妻)は夫がいない家で気楽にのんびりする――。その時々の世相を切り取って、分かりやすいメッセージを送るテレビCMが、男女雇用機会均等法が施行された1986年に伝えたのは、「男は仕事、女は家事・育児」という価値観だった。

 主な稼ぎ手として働いていた自分から一転して、稼げない自分に直面した葛藤は、駐夫の多くが経験していた。病気が原因で退職した渡辺さん(編集部注/「経済力や社会的立場で妻より劣っていると自認する男性」として、筆者にインタビューされた)も駐夫たちと同様、稼得能力が失われた自分を直視することに苦しみ、情けなさや不甲斐なさを痛感した。家庭の仕事に没頭する自らの存在意義に疑問を抱いた原因として、自分が家父長制の考えに染まっていたという事実を突き付けられた。

プライドを捨てられないまま
妻との立場は逆転

 稼得能力は十分にあるものの、圧倒的に妻の収入のほうが多い内田さん(編集部注/「経済力や社会的立場で妻より劣っていると自認する男性」として、筆者にインタビューされた)は、妻に食べさせてもらっているという劣等意識が頭から離れることはないという。

 駐夫の語りには、現地生活でスーパーなどに買い物に行った際、買いたいものを買うべきか、どうするか迷った末、値段や必要性の有無などを考え、陳列棚に戻したというくだりがあった。