日経新聞のインタビュー取材は受けていた…
企業は平気でウソをつく

 その日、私が手にしていた「日経新聞」の一面トップに、「ヤマト一斉値上げへ 法人向け、物流も脱デフレ」という記事が載っていた。記事は、クール宅急便の温度管理の問題にも触れ、宅急便の単価を引き上げないと、温度管理を含むサービス品質が保てないという、ヤマト運輸の抱く危機感について言及されていた。

 クール問題のみそぎが済むまで私の取材を受けないということと、この記事が載っていることとは矛盾しないのかと問うと、「この記事は『日経新聞』が周辺取材をして独自に書いた記事だ」という答えが返ってきた。

 けれども、翌日の「日経新聞」にも「ヤマト値上げ、社長に聞く 品質向上へ理解訴え」というインタビュー記事が載った。つまり、あと1年は取材を受けられないというのは、私の取材を断る口実でしかない。

 企業は平気でウソをつくのだ。

 ヤマト運輸が私の取材を断った理由は、労働問題を含め、触れられたくない部分があったからだ。企業は本能的に、自分たちの書いてほしいことを書いてくれる媒体や書き手と、自分たちが触れられたくないことまでずかずかと踏み込んでくる書き手とを嗅ぎ分けて、対応を変える。自分たちの筋書きに沿って書いてくれるところを優遇する一方で、嫌なことを書く可能性がある書き手は、徹底して遠ざける。

 私はと言えば、『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』(05年)では、物流センターの抱える労働問題について指摘し、直前に出版した『ユニクロ帝国の光と影』(11年)では、ユニクロの成長の影の部分として、国内外でのサービス残業の実態を暴いていた。企業からすると、遠ざけておきたい書き手の1人だろう。これまでと同様の姿勢でヤマト運輸について書くならば望ましくない、という防衛本能がヤマト側に働いた。

 しかし、本は書かなくてはならない。

 さてどうしよう。