子ども写真はイメージです Photo:PIXTA

学校教育の場では教師から「大きな声で、はっきりと自分の思いを伝えてみよう」と促される場面が多い。しかし、思想家・内田樹氏はそこにNOを突きつける。内田氏はむしろ「学校教育では自分のヴォイスを見つけることが必要だ」と指摘する。他者の請け売りではない、本当の自分の意見を伝えるための『ヴォイス』の見つけ方とは?※本稿は、内田 樹『勇気論』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。

学校教育で大切な目的の1つは
「自分のヴォイス」を見つけること

 僕はよく学校教育のたいせつな目的の1つは「自分のヴォイス」を見つけることだということを言っています。ですから、教育についての講演ではよくその話をします。聴衆はだいたいびっくりした顔で話を聴いています。そういうことを言う人は、国語教育の人たちにもあまりいないからだと思います。

 僕が「自分のヴォイス」と呼ぶのは、それに載せると自分がほんとうに思っていること、感じていることを、かなり近似的に表現できる声のことです。自分の思考の流れとか、呼吸とか、身体を動かす時のリズムとかと「合う」声のことです。子どもたちには、そういう声を見つけて欲しいといつも願っています。

「自分のヴォイス」で語るというのは、僕の経験で言うと、言い淀み、口ごもり、言い換え、同じことをぐるぐる回り、時々黙り込んでしまうようなことが「できる」ということです。自分の中でいま発生していて、まだ輪郭の定かならぬ思念や感情を、いわば星雲状態のまま、その生成過程にあるままを差し出す声です。ですから「理路整然」とか「口跡明瞭」というわけにはゆきません。