野球が好きで、野球を楽しむ小学3年生が練習を重ねて初めて打ったオーバーフェンスのホームランだ。しかも逆転サヨナラの一発である。意見はさまざまだろうが、いくら公式戦だったとはいえ、あまりに大人げないジャッジだと、個人的には残念に思った。そんな顛末で、大谷が野球人生で初めて打ったホームランは幻となってしまったのである。

 その1本を取り戻そうとしたわけでないだろうが、その後、大谷はホームランを打ちまくる。リトルリーグでの通算ホームラン数は35本。これは今もなお突出した記録として語り継がれているのだとか……当時、水沢リトルリーグで事務局長を務めていた浅利昭治さんがこんな話をしてくれたことがある。

ボールは1個750円もするから
川に飛び込むライトへは打つな

「岩手の県大会ではホームランダービーを行うんですが、翔平は6年生のときに各チームで4番を打つ中学1年の選手たちに混ざって参加しました。それでもダントツのホームラン数で、優勝です。印象的だったのは打球の質の違いでした。みんな、力むからラインドライブの打球になって、なかなかホームランを打てないんです。最高でも15スイング中、3本だったかな。でも翔平は15スイング中、11本のホームランを打ちました。フワッと振って、バットにボールを乗せて、軽々と運ぶと、打球がいい角度で上がる。しかも、とんでもなく遠くまで飛んでいくんですよ」