ヘッドスピードがとてつもなく速いから、ボールをギリギリまで引きつけられる。しかもスイングがインサイドアウトの軌道を描いているため、ボールの内側を叩くことができる。だからセンターから左への打球も遠くへ飛ぶのだ。
全打席、全球
ホームランしか狙っていない
石田雄太 著
子どもの頃に岩手で打っていた弾道と、20歳になって名護で打っていた弾道は重なり、そして今、メジャーでの大谷のホームランの弾道にも重なってくる。大谷のホームランの原風景は、少年時代にできあがっていたのだ。振り返ればプロ3年目、ホームランに関する大谷の言葉は明らかに変わっていた。20歳の大谷はこう言っている。
「打率は上げなきゃいけないとは思いますけど、僕にはホームランが必要です。そこが増えれば必然的に打点も増えるし、チームの勝利に近づきますから……」
あれから10年、今の大谷も、全打席、全球、ホームランしか狙っていない。それは彼のスイングを見ていればよくわかる。
幻の1本から始まった大谷翔平、ホームランの物語――その劇的なハイライトは、シーズン74本か、飛距離170mか、はたまたワールドシリーズでのサヨナラホームランか。そのどれも可能性はある。
1994年7月5日、岩手県生まれ。花巻東高校時代に通算56本塁打と球速160kmをマークした。2013年にドラフト1位で北海道日本ハムファイターズに入団。2年目に日本プロ野球史上初の「2桁勝利、2桁本塁打」(11勝10本塁打)を達成。3年目の2015年には最優秀防御率、最多勝、最高勝率の投手3冠に輝く。2016年には日本プロ野球史上初の「2桁勝利、100安打、20本塁打」で投打の主力としてリーグ優勝と日本一に貢献、リーグMVPに選出された。5年間の日本プロ野球を経て、2017年12月8日にロサンゼルス・エンゼルスとの契約に合意し、MLBに移籍した。メジャー1年目から投打二刀流でプレー。MLB史上初の「10登板、20本塁打、10盗塁」を達成し、ア・リーグ新人王に輝いた。シーズン中に右肘靭帯を損傷したため、シーズンオフにトミー・ジョン手術を行った。2年目は5月にリハビリから復帰するものの、9月にふたたび手術で欠場。3年目の2020年はCOVID-19の影響でシーズン開幕が遅れ、さらに故障もあり、出場試合は限られた。2021年、初めて投打二刀流で怪我なくシーズンをプレーし、ア・リーグMVPに満票で選出された。2022年、1918年のベーブ・ルース以来史上2人目となる同一シーズン「2桁勝利、2桁本塁打」を達成、さらにMLB史上初となる投打ダブルでの規定到達も成し遂げた。2023年、日本代表として第5回WBCに参加し、投打で主力として日本の優勝に大きく貢献し、MVPに。さらにレギュラーシーズンでは日本人初となる本塁打王を獲得し、2021年に続き、ア・リーグMVPに満票で選出された。2度の満票選出はMLB史上初。2023年12月9日にロサンゼルス・ドジャースへの移籍を発表。契約金は北米4大プロスポーツ史上最高となる10年総額7億ドル(約1015億円)。