ホームランバッターとしての開眼――その翌年、2015年の春の名護キャンプで聞いた衝撃的な音が、今でも耳に残っている。大谷がプロに入って初めての居残り特打を行ったときのことだ。柵越えを連発した凄まじい特打の打球音が、いちいち、こう聞こえた。
グワアゴワガキン。
水島新司さんの野球漫画『ドカベン』の岩鬼正美の打球音、そのものである。当時のファイターズ、栗山英樹監督がこう言って、呆れていた。
「だから特打なんてやらせたくないんだよ(笑)。だって、ショーになっちゃうからね。翔平、気持ちよくてしょうがないんだろ。そんなの、ダメダメ。『やっぱりオレってすごいのかな』って思っちゃうでしょ。そんなこと、思う必要ない。もっと必死にやれってことだよ」
プロに入ってから、バッティングの動きはほぼ野放し状態にしてもらい、自由きままに打ってきた。にもかかわらず、身体を大きく、強く、柔らかくするたびに、打球の飛び出しが高くなり、弧が大きくなった。打ち上げてしまったと悔しがるはずの打球が、どこまでも高く、どこまでも遠くへ飛んでいく。